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対談連載「ホルン演奏を科学して“音楽教育の未来”を切り開く」の第3回。「ホルンで高い音を出すには?」という質問に対してアドバイスをするとしたらどのようなアプローチが可能か、というテーマで平野先生と溝根先生にお話を伺いました。
連載
【研究者×プロ奏者対談】ホルン演奏を科学して”音楽教育の未来”を切り開く

科学的に検証されたデータがもたらすもの

高い音を出すには?

司会:2014年掲載の平野先生の記事「ギネス級!?ホルン演奏を科学する」には、中高生から大人の方まで多くの読者からコメントをいただいています。例えば「高い音はどうやったら出ますか?」という質問が多くありましたが、どのようなアドバイスが考えられるでしょうか?

図1 ハイF

平野:前の記事にも書きましたが、ホルン演奏では奏者の唇を振動させて音を鳴らしていて、音の高さは唇の振動の回数で決まります。高い音は振動の回数が多く、ホルン演奏で一般的に高い音と言われる「ハイF」(図1 を参照)では、1秒間に約700回もの唇の振動が必要になります。つまり「ハイFが出せない人」は、「唇の振動が約700回に達していない」ことになります。

 

司会:なるほど。

平野:この唇の振動がうまくいかない原因は、いくつか考えられます。身体の使い方に着目すると、①唇(アンブシュア)の状態、②息の圧力、③マウスピースを唇に押し付ける力などです。

最近私が研究している③の「マウスピースを唇に押し付ける力」では、プロ奏者は「ハイF」を演奏するときに、約25ニュートンの力で唇を押し付けていることがわかりました。これは2.5リットルのペットボトル(約2.5kg)を地面に対して垂直に唇に押し当てているときと同じくらいの重さを唇は感じていることになります。ペットボトルを逆さまにして手のひらにのせると、重さを感じますね。手のひらに感じているこの重さを、プロ奏者は「ハイF」を演奏するときに唇に感じているのです。

司会:結構な重さですね。

 

溝根:想像できるものに置き換えるとわかりやすいですよね。

 

平野:具体的に示せる点も、科学的研究の良い面だと私は思います。これまで指導者は「もっと強く押して」とか「ほとんど触れないくらい弱く」とか指示を出していたわけですが、研究によってこうした事実がわかってくると「ハイFを演奏するときは2.5リットルのペットボトルの感覚で!」と伝えることもできます。

 

司会:確かに、わかりやすいですね。

平野:こんな経験をしたことがあります。「ハイF」を演奏できないことに悩んでいる高校生がいて、その高校生の力を測ったところ25ニュートンよりもはるかに弱い力で演奏しようとしていることがわかりました。そこで、数値を見せながら「この数値まで力を出して吹いてみて」と伝えたら、なんと「ハイF」が出たのです!

決して良い音ではありませんでしたが、それまで一回もその音を出せたことがなかった本人は大喜びしていました。

溝根:本当に嬉しかったのでしょうね。その高校生は、素晴らしい体験をしましたね。

 

平野:そうだと思います。そして、その高校生は「これまで高い音はマウスピースを唇にあまり押さえつけないほうが良いと思って練習してきました」と言っていましたが、これを体験した直後には「これまでは力が弱すぎて、音が出ていなかったのですね」と言って、すっきりとした表情をみせてくれました。もしかしたら、この高校生のように間違った思い込みで高い音が出せない人も少なくないかもしれません。

 

司会:なるほど。これは興味深い話ですね。

 

平野:私はこのような体験をしてから「科学的に検証されたデータを教育現場に還元する必要性」を強く感じました。そして「これからも研究者としてプロ奏者、アマチュア奏者を問わず悩んでいる演奏家を救いたい」と思うようになりました。

 

司会:溝根先生は「高い音はどうやったら出ますか?」という人には、どのようにアプローチされていますか?

溝根:金管楽器で音の高さをコントロールするには、6つの要素があると私は考えています。

「息の量やスピード」「唇の息の通り道の大きさ」「プレスの強さ」「マウスピースの動かし方」「舌の位置」「下の歯の位置」の6つです。

 

レッスンではこの6つの要素がそれぞれ適切かそうでないかを見極めて、不適切なものがあればそこに特化したエクササイズを提案しています。

平野:溝根先生のおっしゃるとおり、高い音が出せない原因は1つとは限りません。先ほど私が例に出した高校生は、たまたまマウスピースを唇に押し付ける力を調整したら音が鳴りましたが、複数の要素が不適切な場合、力だけを変化させても高い音がでるという保障はありません。このことは、お間違えのないように。

 

司会:なるほど。そうすると研究する対象はもっとたくさんあって、研究が進めばそれだけいろいろなことがわかってくる、ということでしょうか?

 

平野:そのとおりです。

 

溝根:期待しています!

 

(司会:ヤマハ音楽研究所)

 

→「4.学習者へのアドバイス」に続く(全6回連載予定)

 

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◇プロフィール

平野 剛(ひらの たけし)
桜美林大学 芸術文化学群 助教
専門:運動制御学、神経生理学、バイオメカニクス

URL:http://takeshi-hirano.com/

溝根 伸吾(みぞね しんご)

東京藝術大学卒業及び同大学院修士課程修了仙台フィルハーモニー管弦楽団ホルン奏者

宮城学院女子大学非常勤講師

Twitter:@mizone_s

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