藤村:まずは、お話にもあった「マウンテンギター」ですね。
個人的にギターの演奏には苦手意識がありますが、こちらは持ちやすいですね。ただ持ちやすいだけではなく、ちゃんとギターを手にするような実感のある重みもあります。弦を押さえずに、ただ溝の部分に指を沿わせてなぞるだけで音が出るのが嬉しいです!
金箱:ギタリストのように身体を傾けたり、高さを変えてみてください。
藤村:少しの動きでも音が変わっていきます。ボタンでエレキギター、アコースティックギターなど音色を選ぶこともできるし、あたかもステージでパフォーマンスしているような気分が味わえますね。
金箱:子どもでも直感的に演奏できるし、視覚障がいを持つ方からも演奏しやすいという意見を頂きました。
※「マウンテンギター」についての詳細はこちら
藤村:次に見せて頂いたのは、白い石のようなものです。これは何ですか?
金箱:「ブリンクストーン」と言って、踏むと衝撃に反応して光る仕組みを持った人工の石です。触ってみてください。
藤村:手に取ってみると、ちゃんと本物の石と同じ質感で、重さもしっかりとありますね。触れる度に石がほのかに光るのがわかります。
金箱:これは、形や大きさが違う10パターンの型を実際の石から取って、基板と樹脂を封入しています。私の担当は回路設計と基盤制作でしたが、量産作業がとにかく大変でした。学生さんと協力して、2000個を作りました。
そうして作ったものを、茅ヶ崎市美術館で展示した際にワークショップで使いました。昼ではなく、夜にやる石蹴り大会を開催したのです。
藤村:映像を見せてもらうと、暗闇の中でも蹴られた石の軌道がはっきりと見え、子どもたちが声を上げて石を追いかけていく様子がよくわかります。これは盛り上がったでしょうね!
※「ブリンクストーン」についての詳細はこちら
藤村:次は、缶コーヒーのプルトップのような形のものが登場しました。
金箱:これは「クラップライト」と言って、拍手や手拍子を可視化できるものです。
コンサートホールでは演奏者側が明るくて、観客側は暗い。そうなると、聴覚障がいを持つ方は拍手の音も聞こえない上に視界もおぼろげで、どんなリズムで空間が盛り上がっているのかが分かりにくいのです。
それで、拍手を暗闇でも見えるようにすればいいんじゃないか、という発想で作りました。
藤村:では、中指に穴の部分をはめて装着してみます。手を叩くたびにピカピカと光って楽しいです!中に埋め込むLEDの色によって、光の色を変えられるんですね。
金箱:コンサートの他の使い道としては、一つは妹の結婚式で、入場のタイミングで参列者に使ってもらいました。拍手が目に見えることで、温かい演出になりました。
もう一つは今年の6月末に福岡市科学館のプラネタリウムで行われた企画で、来場者にクラップライトを着けて拍手してもらい、その様子を撮影しておいて、最後に天球に写すという試みをしました。
藤村:映像を見せてもらうと、スクリーンにたくさんの光の軌跡が写されていて、とても美しい星空になっています。しかも自分が生み出した光がどこかに入っているとは、とてもロマンティックな体験ですね。
金箱:これは僕の撮影が失敗したら台無しになってしまう企画なので、緊張感がありました。
プラネタリウムではその場で映像を作って流すというのは通常ありえないことで、舞台裏ではかなりのドラマがありました。
※「クラップライト」についての詳細はこちら
※ プラネタリウムイベントについての詳細はこちら
藤村:次に登場したのはイヤーマフと、マイクがついている道具ですね。
金箱:これは「タッチ・ザ・サウンド・ピクニック」と言って、周囲の音を振動に変えるというものです。
まずはイヤーマフを着けて、音を遮断してください。その後本体を握ると、どんなものであるかすぐにわかってもらえると思います。
藤村:なるほど、掌に直接振動が伝わってきました!大きな音、鋭い音など、音の性質によって伝わり方が変わってくるので面白いですね。例えばエアコンの音は規則的な小さい震えとして伝わってくるし、声を直接マイクに当てると掌に突き刺さってくる感じがします。
金箱:これは、昨年の「ICCキッズ・プログラム 2017 “オトノバ 音を体感するまなび場”」のワークショップで使いました。会場には音の鳴る作品がたくさんあったので、耳の聞こえにくい方がどんな音体験ができるのか、新しい提案をしたいと思ったんです。
子どもたちにも耳栓とイヤーマフを着けて聞こえにくい状態を擬似的に体験してもらいながら、肌や目で感じた音を自分なりの擬音語として挙げてもらい、お互いに共有しました。
藤村:映像を見ると、参加した子どもたちが真剣に音に集中している様子が印象的ですね。同じ音に接していても、色々な受け取り方があるのが面白いです。
※「ICCキッズ・プログラム 2017 “オトノバ 音を体感するまなび場”」についての詳細はこちら
藤村:楽器と言われるとつい「弾けないんだけど」と身構えてしまう方もいるかと思いますが、金箱さんの作品は触れれば音が鳴る、光っているのが目で見えるなど、すぐにその世界に入れて遊べるものばかりでした。誰でも壁がなく演奏できる、まさに「共遊楽器」だと感じました。
次回は、金箱さんが描いている未来について伺います。
(インタビュー・文 藤村美千穂)
→「3.『共遊楽器』のこれから」に続く(全3回連載予定)
金箱 淳一(かねばこ じゅんいち)
1984年長野県北佐久郡浅科村(現:佐久市)生まれの楽器インタフェース研究者 / 博士(感性科学)。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了後、玩具会社の企画、女子美術大学助手、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科研究員を経て、産業技術大学院大学創造技術専攻助教、現在に至る。障害の有無にかかわらず、共に音楽を楽しむためのインタフェース「共遊楽器(造語)」を研究している。
http://www.kanejun.com/
藤村 美千穂(ふじむら みちほ)
1976年4月9日、大阪府生まれ。大阪大学文学部卒。
小説や脚本などジャンルに囚われない執筆活動を行っている。
既刊の著書は『マトリガール』『ニーナの羅針盤』(ポプラ文庫)。
http://www.bright-write.com/