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麦谷 綾子(むぎたに りょうこ)
NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部
※記事掲載時点の情報です

ことばのリズム

日本語のリズム

外国語に耳を澄ませてみましょう。なにを言っているかはさっぱりわからなくても、日本語とは異なるその言語特有のリズムを感じとることができるのではないでしょうか?さらに注意深く聞いてみると、たとえば英語とドイツ語、イタリア語とスペイン語のように、互いに似たリズムを持つ言語があることに気付くかもしれません。

言語にはそれぞれ一定の規則的なリズムがあります。この規則性を音声のどのような構造によって作り出すかで、大まかに3つの言語リズムに分けられるといわれています。フランス語やイタリア語、スペイン語のようなラテン系の言語は、主に母音を中心とした音節と呼ばれる音のまとまり(典型的には子音+母音+子音という構造を持っています)が同じ長さを持って繰り返されているように聞こえます。こうしたリズムを持つ言語を「シラブル(音節)リズム」の言語と呼びます。一方、英語やドイツ語、オランダ語などのゲルマン系の言語では、音節ではなく強勢、つまりことばの流れの中で強く長く発声される部分が規則的に現れることで一定のリズムを生み出し、こうした言語を「ストレスリズム」の言語と呼びます。ストレスリズムの言語は音の強弱がほぼ交互に出てくため、メリハリのあるリズムに聞こえるといわれます※1

では日本語はどうでしょうか?実は日本語は、とても独特のリズム構造を持っているといわれています。日本語は大きな枠組みではシラブルリズムの言語の一種と考えられていますが、音節より小さいモーラとよばれる構造を基本単位にします。モーラは「子音+母音」、「母音のみ」、または「特殊拍」とよばれる「っ・ー(伸ばす音)・ん」から構成され、原則的に仮名一文字が一つのモーラに対応します。そのため、「お・ん・が・く」や「き・っ・ち・ん」は4モーラと数えます(同じ単語を音節単位で数えると、「お・ん・が・く」は/on-ga-ku/、「き・っ・ち・ん」は/kit-chin/に分節され、それぞれ3音節と2音節の単語になります)。日本語はこのモーラが同じ長さで規則的に現れる「モーラリズム」言語と呼ばれ、機関銃を連射するときのような「ダ、ダ、ダ、ダ、ダ」という単調な繰り返しに聞こえるといわれます※1

言語リズムの獲得と発達

言語リズムの違いは大人にとってだけでなく、赤ちゃんにとっても聞き取りやすいものです。たとえば赤ちゃんは、生まれてわずか数日でストレスリズムをもつ英語とモーラリズムをもつ日本語を区別することができます。一方で、同じストレスリズム言語である英語とオランダ語は区別できないこと※2から、新生児にとってはリズムの違いこそが2つの言語を区別する手掛かりとなることがわかります。生後5か月程度になると、同じリズム構造を持っていても母語と外国語の組み合わせであれば区別できるようになりますが、同じリズム構造を持つ外国語同士は相変わらず区別できません※3

言語リズムの特徴は、(1)子音部の長さのゆらぎ、と、(2)発話全体に占める母音の割合、である程度捉えることができるといわれています※4。たとえばストレスリズム言語である英語の場合は強勢さえ規則的に現れればよく、音節の長さはある程度自由に伸び縮みさせることができます。そのため、/shoe lace/の太字のような単独の子音部だけでなく、/strict school/の太字部分のように、子音がいくつも連なる子音連続を作ることができます。結果として、子音だけで構成される部分の長さはその時々で大きくゆらぎます。一方モーラリズムを持つ日本語では子音連続が起こりにくいため、子音だけで構成される部分の長さはほとんどゆらがず、一定していることが多くなるのです。また、子音がいくつも連続しないという特性のために、モーラリズム言語では相対的に発話全体に占める母音の割合が多くなります。なお、シラブルリズムの言語の場合、音節の長さはある程度決まっていますが、それでもモーラリズム言語よりは頻繁に子音連続が起こるため、子音の長さのゆらぎ、母音の割合ともにストレスリズム言語とモーラリズム言語の間に位置します。

発話の発達において、母語のリズムがいつごろから現れるのかを調べる目的で、日本語で養育されている赤ちゃんの声を毎月収録し、「子音部の長さのゆらぎ」と「発話全体に占める母音の割合」の発達変化を追ってみました。下の左のグラフは、一人の赤ちゃんとそのお母さんの発声について、縦軸に子音部の長さのゆらぎ、横軸に発話全体に占める母音の割合をとったものです。

図1.「子音部の長さのゆらぎ」と「発話全体に占める母音の割合」の発達変化

図1.「子音部の長さのゆらぎ」と「発話全体に占める母音の割合」の発達変化

×は月齢ごとの赤ちゃんの発声データ、オレンジの○は月齢ごとのお母さんの発声データ、左下の緑色の楕円(だえん)はお母さんの発声がとりうる範囲を示しています。一見してわかるように、月齢があがるにつれて×で示された赤ちゃんの発声の値がお母さんの発声の楕円に近づき、生後25か月以降では楕円の中に収まりました。つまり2歳を過ぎると、こどもはお母さんと同じようなリズムで発声するようになるのです。

右のグラフはこの発達変化をより詳しく示したものです。青い●は楕円の中心点であるお母さんの発声データの平均からの各月齢の赤ちゃんのデータまでの距離を示しています。赤ちゃんの発声が、生後4か月から2歳ぐらいの間になめらかにお母さんの発声に近づいていくことが見てとれます。このことから、赤ちゃんはまだ日本語をきちんと話し始める前の段階から自分の母語のリズム構造を獲得しはじめ、2語文が話せるようになる2歳ごろにはすでに日本語の言語リズムで発声している可能性が考えられます。

ところで、どのような言語リズムを聞いて育つかは、その人が生み出す音楽にも影響を与えるようです。異なる言語を母語とする作曲家、たとえばイギリス人のエルガーやホルストと、フランス人のドビュッシーやサンサーンスの器楽曲を分析・比較した研究があります※5。器楽曲ですので、歌唱曲のように言語が直接メロディーに影響を与える可能性は少ないはずです。それにも関わらず、フランス人の作曲家の楽曲と比べて、イギリス人の作曲家たちの楽曲では一音一音の長さのゆらぎがより大きいことがわかりました。しかもこの特徴は英語とフランス語を比較したときの言語的な特徴と一致するのです。つまり、作曲家たちは知らず知らずのうちに、自分のなじみのある言語リズムを自分の音楽に反映していることが伺えます。

  • ※1 音韻構造とアクセント(1998). 窪薗晴夫・太田聡著 研究社出版
  • ※2 Nazzi, T., Bertoncini, J., Mehler, J., (1998). Language discrimination by newborns: towards an understanding of the role of rhythm. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance 24, 756-766.
  • ※3 Nazzi, T., Jusczyk, P.W., Johnson, E.K., (2000). Language discrimination by English learning 5-month-olds: effects of rhythm and familiarity. Journal of Memory and Language 43, 1-19.
  • ※4 Ramus, F., Nespor, M., Mehler, J., (1999). Correlates of linguistic rhythm in the speech signal. Cognition 73, 265-92.
  • ※5 Patel, A. D., & Daniele, J. R. (2003). An empirical comparison of rhythm in language and music. Cognition 87, B35-B45.
著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部
専門:発達科学
麦谷 綾子(むぎたに りょうこ)
NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 専門:発達科学
著書・論文
  • 「心理学研究法第4巻:発達心理学(分担執筆)」(誠信書房)
  • 「児童心理学の進歩 2011年度版(分担執筆)」(金子書房)
  • 「乳幼児心理学(分担執筆)」(放送大学教育振興会)
 
著書・論文

  • 「心理学研究法第4巻:発達心理学(分担執筆)」(誠信書房)

  • 「児童心理学の進歩 2011年度版(分担執筆)」(金子書房)

  • 「乳幼児心理学(分担執筆)」(放送大学教育振興会)


 
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