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ヤマハ音楽研究所

※記事掲載時点の情報です

団塊の世代の「音楽とライフ」に関するエピソードサーベイ 結果概要

「団塊の世代」とは1947(昭和22)~1949(昭和24)年の第一次ベビーブームの時期に生まれた世代を指し、他の世代と比べて人口が多いことに特徴付けられます。2015年を迎えるまでに65歳以上の高齢者となる団塊の世代は、高齢者全体の人口において占める割合が高いことから、超高齢社会の日本において大きな影響力をもつと言われています。

本調査はその団塊の世代を対象に、「音楽とライフ」とのつながり方を質的に把握することを目的として、デザインリサーチを得意とするU’eyes Designとともに実施しました。意識的あるいは無意識的に音楽とかかわっている活動に関するインタビューを行い、キーワードのまとまりを抽出して、団塊の世代の「音楽とライフ」を特徴付ける可能性のあるエピソードの整理を試みました。調査・分析の結果、団塊の世代における「音楽とライフ」とのつながり方には以下の2つの方向性があると考えられます。

(1) 青春時代や昔はかなわなかった夢への憧憬(しょうけい)、充実したシニアライフへの展望などから、音楽的な諸活動に能動的に関与する
(2) 自分の子どもや孫、あるいは仲間とのコミュニケーションを促進させ、老いとアクティブに向き合うために生活に音楽を介在させる

たとえば「バンド活動をする」という一つの形態において、懐かしさや自分の世界に没頭したい場合と、仲間の輪を広げ音楽を楽しみたいという場合とで、音楽に求める役割に異なる方向性がみられました。本調査は個別具体的なエピソードに基づくため、この結果を一般化することはできません。しかし、団塊の世代が主体的に音楽にかかわる際の動機の多様性、音楽活動の質的な違いを浮き彫りにするものと言えるでしょう。

調査概要

企画
ヤマハ音楽研究所 研究開発室

調査実務
株式会社U’eyes Design

調査期間
2014年3月30日~4月1日

調査時間
1セッション70分

調査場所
ハウスクエア横浜内会議室(神奈川県横浜市都筑区)

調査方式
ワークショップ形式の会場調査

調査対象
株式会社U’eyes Designならびにパートナー会社のモニター会からWebアンケートを通して選出された、団塊の世代の方50名(男性26名・女性24名)
Webアンケートの結果をもとに、音楽に関して何らかのエピソードをもち、横浜市でのワークショップに参加可能な首都圏近郊在住のモニターに本調査への協力を依頼した。

団塊の世代の「音楽とライフ」エピソード

調査方式

本調査は50名の団塊の世代の方々を対象にワークショップ形式で行われました。

調査会場に集まっていただいたモニターの方々は、最大6名のグループになり、事前のアンケートで回答した意識的/無意識的な音楽活動に関するエピソードを関係図シートに記入します。関係図シートにはいわゆる5W1H(誰が・何を・いつ・どこで・なぜ・どのように)の枠が設けられており、音楽活動とライフとの関係性を整理しやすい書式となっています。さらにその関係図に広がりができるよう、ワークショップを通してそれぞれの言葉からキーワードを連想し、自由に記入してもらいました。記入に当たっては、適宜メモなどに使用できるカードも準備されました。

すべてのグループによるワークショップの終了後、回答済みの関係図シートから特徴的なキーワードのまとまりを分析し、「聴く」「歌う」「演奏する」などのカテゴリーごとに「音楽とライフ」のエピソードを整理しました。その結果、団塊の世代の「音楽とライフ」のエピソードは、次の10パターンにまとめられました。

意識的
無意識的
・コンサートに行く
・歌を歌う
・楽器を演奏する
・何かをしながら鼻歌を歌う
・音楽を聴きながら足でリズムを取る

表1.音楽活動の例

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図1.回答済みの関係図シート

10の「音楽とライフ」エピソード

「聴く」

エピソード1:○○しながら、青春時代の曲を聴く
いわゆる「ながら聴き」に関するエピソードは男女ともにみられました。家事の最中、あるいは健康を目的とした運動の時間が、音楽を聴くこととつながっているようです。

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エピソード2:一人で音楽を聴きながら、昔を懐かしむ
自分の時間へ没入することと、昔を懐かしむ音楽を聴くことの間に関係性が指摘できます。このエピソードに関しては、聴く音楽へのこだわりが強く、良質な音を追い求める傾向がありました。

エピソード3:○○仲間と、“あの人”に会いにコンサートへ行く
世代や関心を共有する仲間と一緒に行動したいという気持ちが、実際にコンサートに聴きに行くことにつながっていました。本調査では特に女性に多くみられました。

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「聴く」/「歌う」

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エピソード4:孫が興味ある音楽で楽しむ
このエピソードにおけるポイントは、孫とのコミュニケーションが音楽活動と結び付いている点です。孫にとって身近な音楽を聴かせてもらう、孫と一緒に音楽イベントに参加するなど、活動の形態はさまざまでした。特にふだんから孫の育児に関与している層に顕著な傾向でした。

「歌う」

エピソード5:お酒+カラオケで、○○仲間とつながる
このエピソードでは、仲間とのコミュニケーションが歌う活動と結び付いています。行きつけの居酒屋やカラオケバーで、あるいは地域のサークル仲間や同窓会などで、カラオケを歌って盛り上がるという回答があり、特に大勢で過ごすことに楽しさを感じる、社交的な男性に多くみられました。

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エピソード6:恥ずかしいので、一人でこっそり青春時代の歌を歌う
「青春時代の歌」は体に染みこんだ歌を象徴しているととらえられます。人前で歌うことへの抵抗と、歌うこととが結び付いたエピソードで、口ずさむケースも大声で歌うケースも含まれます。このエピソードは性別など特定の属性に関係なくみられました。

エピソード7:うろ覚えでも、気に入った最近の曲なら口ずさむ
新しい音楽への関心に自覚的であり、覚えることは多少難しくても歌いたい曲を歌っているというエピソードです。本調査では特に女性に多くみられました。

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「演奏する」

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エピソード8:バンド活動再開し、好きなバンドを再現する
いわゆる「おやじバンド」的な活動に関するエピソードととらえられ、特に男性に多い回答でした。1960~70年代にアメリカなどから輸入されたポップ・カルチャーへの憧れや、社会人になって中断してしまったバンド活動への意欲と、時間的・経済的余裕ができたこととのつながりが関係しているようです。

エピソード9:昔、手が届かなかった楽器にチャレンジする
昔は手に入らなかった「楽器への憧れ」がキーワードになっている点はエピソード8と共通しますが、「バンド(仲間)」という要素にかかわらず、新たに楽器にチャレンジしたというエピソードとしてまとめられます。本調査では男女にかかわらず回答がありました。

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「踊る」

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エピソード10:地域のサークルで、憧れの社交ダンスを始める
華やかな衣装への憧れや健康への意識が、「踊る」という活動に結び付いています。活動場所として「地域サークル」というキーワードが挙がりました。女性に多い傾向ですが、夫婦で参加しているという回答もありました。

団塊の世代の「音楽とライフ」の変遷

以上の調査結果を受け、ヤマハ音楽研究所では世代的な特徴を手がかりに団塊の世代の「音楽とライフ」について考察を試みました。

自分の世界に誘う音楽、コミュニケーションを促進する音楽

冒頭で述べたように、終戦後の1947(昭和22)~1949(昭和24)年、さまざまな資源が限られていた時代に団塊の世代は生まれました。大家族の中で育った方が多く、青年になると「金の卵」として働き手となり日本の高度経済成長を支えました。また、彼らが10代後半から20代を過ごしたころ、アメリカはじめ海外の音楽やファッションなどポップ・カルチャーが若者に刺激を与え、大学では学生運動が展開されました。

本調査で整理された10のエピソードで目立つのは、「青春時代」「昔」「憧れ」といったキーワードです。たとえば「エピソード1:○○しながら、青春時代の曲を聴く」「エピソード6:恥ずかしいので、一人でこっそり青春時代の歌を歌う」では、聴いたり歌ったりする対象が「青春時代の音楽」と語られています。本調査では個々のエピソードを語っていただくかたちを取ったので、「青春時代」の示す具体的な時期は人によってさまざまでしょう。しかしここでは年齢よりも「青春」という言葉が内包する意味、すなわち若くて希望にあふれていた時代における音楽のことと理解して差し支えないと思われます。「エピソード2:一人で音楽を聴きながら、昔を懐かしむ」「エピソード9:昔、手が届かなかった楽器にチャレンジする」「エピソード10:地域のサークルで、憧れの社交ダンスを始める」なども含め、これらのエピソードは過去への追慕やかなわなかった夢への憧憬(しょうけい)が深くかかわっていると考えられるでしょう。

また、「エピソード8:バンド活動を再開し、好きなバンドを再現する」は、「好きなバンドを中断していた時期」があったことを示唆しています。ここから、本調査で言及された「青春時代」や「昔」がいつであれ、その時代と「現在」との間にはある一定期間の断絶があることが注目されます。そして、団塊の世代の方々が過ごしてきた物理的な時間の長さとしては、おそらく青春と呼ばれた時代よりそれ以降の方が長いと考えるのが自然です。しかし音楽とライフのつながりに関しては、かつて触れた音楽にまつわる経験や当時の憧れが、高齢者=シニアと呼ばれるようになった現在のライフステージにおいて強い影響を及ぼしていると考えられます。音楽を聴いて自分の世界に浸るか、バンドで自分の音楽を発信するか、方向性に違いはありますが、これらのエピソードは音楽に対して能動的にかかわっている事例と言えます。

以上に言及したエピソードのほかに本調査で挙がったものの中には、「エピソード3:○○仲間と、“あの人”に会いにコンサートへ行く」や「エピソード5:お酒+カラオケで、○○仲間とつながる」のように、特定の場(コンサート、カラオケ)にかかわるキーワードを含むものがあります。ここでは「仲間」が重要な要素になっています。また、「エピソード4:孫が興味ある音楽で楽しむ」は回答者の主な関心が、自身の音楽的嗜好ではなく「孫」に向けられています。つまり、これらのエピソードでは他者とのコミュニケーションが回答者の音楽活動に不可欠なものとして機能しているのです。古きよき時代やかなわなかった夢への憧憬(しょうけい)などから音楽を聴いたり演奏したりするエピソードは音楽に主軸が置かれているのに対して、音楽がコミュニケーションの媒体として果たす役割が大きいエピソードと言い換えられるかもしれません。

今後に向けて

さて、本調査は団塊の世代の音楽とライフにおける実態を質的に把握するために、あえて少数の方々にエピソードを語っていただくというかたちを取りました。それによって見いだすことのできた成果と課題を最後にまとめたいと思います。まず成果の一つは、「どんな音楽を聴くか」「コンサートにどのくらいの頻度で行くか」といったような定量的な調査では把握することの難しいような、日々の生活にそっと音楽が寄り添う場面のいくつかを確認することができたことです。そうした声が10のエピソードにまとめられたわけですが、「エピソード6:恥ずかしいので、一人でこっそり青春時代の歌を歌う」や「エピソード7:うろ覚えでも、気に入った最近の曲なら口ずさむ」の背景には、人前で歌うことの気恥ずかしさ、加齢に伴う自信の薄れ、老いの意識――それでも自分のやり方で楽しみたいといった心の揺れ動きがみられました。また、青春時代を主とした過去への思い・憧れの強さと、いまアクティブに暮らしたいという意欲が音楽活動に深くかかわることと、そうした思いのバランスや動機が人によってさまざまであることも確認できました。本調査でまとめた10のエピソードの客観性を担保するには課題が多く、この結果を一般化することはできませんが、今後もヤマハ研究所は団塊の世代の音楽とライフの実態把握や、音楽が豊かな生活に何をもたらし得るのかについて考察を継続していく予定です。

  • ※ 「青春」とは一般に「年の若い時代。人生の春にたとえられる時期」(広辞苑より)と定義され、「青春期」といった場合には「青年期(男女の14、15歳から24、25歳ごろまでの時期)」と同義とみなされます。しかし本調査では個々の語りの文脈において「青春時代」と音楽活動がいかなるつながりをもっているかを重視しているため、おそらく10代後半から20代にかけての時期を指していると推定されますが、具体的な年齢の範囲を限定せずにこの用語を用いています。
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