緊張やあがり対策でいちばん大切なことは、早めの準備と、生活習慣を整えることだと語る吉江先生。「熱心に練習するあまり、食事・休養・運動などの習慣がおろそかになってはいないでしょうか。本番で実力を発揮するためにも、生活習慣をきちんとして、日常的に心身の状態を良好に保っておくことが重要なのです」(吉江先生)。
緊張やあがりを克服するためには、本番だけでなく、発表会などの予定が決まったときから準備を始めることが大切なのだそうです。「本番当日に“準備が不十分だ”と感じることが、緊張・あがりを最も悪化させると言っても過言ではありません」
ピアノの発表会など、人前で楽器を演奏する場合、技巧的に無理のない曲を選ぶことも緊張しないためには重要なのだとか。「難しすぎる曲を選んでしまい、ステージでの失敗経験を繰り返すと、緊張しやすくなる恐れがあります」。子どもが克服できる程度の曲を選んだり、あえてやさしめの曲を弾く機会を作ったりして、人前で演奏する喜びや自信を養うことが、緊張・あがりの緩和につながるのだそうです。これは楽器以外にもいえることですね。
当日が近づいてきたら、本番をイメージした練習が役に立ちます。「音楽の発表会などでは、当日着る予定の服や靴を身につけて、身近な人にお客さんになってもらい、演奏前後のお辞儀や入退場まで含めたリハーサルをやってみましょう。また、本番までの毎日、頭の中で“想像リハーサル”をすると効果的です。本番のイメージをしっかり作っておけば、たとえ緊張しても、冷静な自分を取り戻しやすくなります」
本番が近づくと夜遅くなりがちですが、それは逆効果なのだそうです。「睡眠不足は緊張・あがりを悪化させる危険性があります。練習した記憶を脳に定着させる上でも、睡眠は必要不可欠。眠いのに無理に練習を続けると、逆に悪い癖が身についてしまい、本番で緊張したときにその癖が出てしまうこともあります」。
せっかくの練習を無駄にしないためにも、早めの就寝を心がけましょう。質の高い睡眠をとれるよう、子どもの寝室の環境にも気を配ってあげたいですね。
本番が近づいて緊張してくると、体質によっては、おなかの調子が悪くなってしまうことがあります。「食事は消化しやすいものを心がけて、食べ過ぎにも気をつけましょう。カフェインのとり過ぎは不安が高まりやすくなるので、本番前はカフェインを控えめに」。カフェインはコーヒーだけでなく、緑茶やウーロン茶、ココア、コーラなどにも含まれます。子どもに飲ませ過ぎないように気をつけましょう。
緊張しやすい子どものために、親ができる対策をご紹介してきましたが、いかがでしょうか。パパやママにも役立つヒントがたくさんあったのではないでしょうか。人前で話すときなど、緊張しそうな場面があれば、ぜひ試してみてください!
吉江 路子(よしえ みちこ)
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間情報研究部門 研究員
専門:演奏心理学、生理心理学、神経科学