研究活動支援対象者の活動レポート

時間とリズムを紡ぐ脳 -MEG計測による時間とリズム知覚に関する心理生理学的研究-九州大学大学院芸術工学研究院 中島祥好 教授 インタビュー2009年07月24日 取材

時間間隔の判断の際に、脳の右前頭部が働くことを発見

今回の実験は、3つの連続する純音を聴いてもらい、1音目と2音目によってできる時間間隔(T1)と、2音目と3音目によってできる時間間隔(T2)の長さを比較。同じか否かを2肢選択で判断してもらい、その際の脳活動を測定しました。まず、第1段階としてERP(事象関連電位)という脳波を使った実験を行ない、第2段階としてMEG実験を行なうことにしました。

光藤: 健常な成人12名に、いくつかの時間パターンを聴いていただき、2つの時間間隔が、等しく聞こえるか不規則に聞こえるか選択してもらい、そのときの脳活動を計測しました。

実験の結果、時間間隔T1がT2より80ms(1ms=1000分の1秒)短いものから、T1がT2より40ms長いものまで、つまり-80ms~+40msの範囲でのズレが生じた場合、物理的には異なっていても時間間隔を等しくとらえようとする、ということが分かりました。そして、こうした時間間隔を判断しようとする際、脳の右前頭部が使われているようだということが、脳波の計測から分かりました。

また、不規則な時間間隔だと認知しているときに脳は活性化し、等しい時間間隔だと認知しているときには、あまり活性化しないという結果も得られました。これは2つの時間間隔が非常に近いときに、時間間隔を等しいと認識することで、脳が処理パワーを節約していて、そのことが結果的に錯覚として知覚されるのではないかと考えられます。

中島: この現象は脳が騙されているというより、脳が自発的に動作を簡略化しようとしている、ということではないかと考えています。

また、これまでの実験で、脳が規則的か不規則かを判断するために必要なのは、2つの時間間隔の比率ではなく、差異であることが分かっています。このことについて光藤氏は、同じ時間間隔かどうかを判断する幅を、絶対的な値として脳が保有している可能性があり、リズムを認知する知覚システムと関係があるかもしれないと考えています。

光藤: 脳波を使った実験では、頭蓋骨を介するためにどうしても信号が弱くなってしまいます。しかし、第2段階の実験で使用したMEGなら、頭蓋骨で信号が弱まることがないので、脳活動に関して1ms単位の高い時間分解能、306チャンネルからの高空間分解能の情報を、リアルタイムかつクリアに得ることができます。また、計測が人体に対してまったく痛みや危険がなく、動作音も静かですので、聴覚野の測定には都合が良いわけです。

現在は、MEGのシステムを導入した共同研究者の飛松教授からのアドバイスを受けながら、実験で得られたデータの詳細な解析を行なっています。脳の右前頭部が時間間隔の判断に関与しているようだという考察についても、さらに詳細な場所が明らかになりつつあります。

中島: こうした詳細な実験や解析を継続して行ないつつ、音刺激の数を増やして時間間隔を3つにするといったことも実施していくことで、異なる時間間隔を脳が等しく知覚しようとするメカニズムについて、解明していきたいと考えています。

今回の実験に使用したMEGおよび実験風景

時間間隔についての実験概要図

今回の実験に用いられた音刺激データ

下記リンクよりテスト音源をお聞きいただけます。

2つの時間間隔が等しい音データ(基本)

テスト用音データ



2つの時間間隔は、どのように感じられましたか?

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