研究活動支援対象者の活動レポート

歯列矯正治療中の管楽器奏者にみられる吹きづらさと痛みに対するオーダーメードタイプのプロテクターの開発北海道大学大学院歯学研究科 飯田順一郎 教授 インタビュー2010年09月16日 取材

演奏者ごとに合わせたプロテクターで、吹きづらさや痛みが解消

アンケートは、(1)高音域の吹きづらさ、(2)低音域の吹きづらさ、(3)口唇の痛み、(4)歯の痛みという設問内容で実施。マルチブラケットと呼ばれる金属製の矯正治療装置を装着期間中にも、管楽器演奏を続けていた経験がある46人を対象としました。

また、この46人の管楽器奏者を、マウスピースやリードの形態によって、(Class A)トランペットなどの金管楽器、(Class B)サクソフォーンなどのシングルリード、(Class C)オーボエなどのダブルリード、(Class D)フルートのそれぞれ4群に分けて比較検討しました。

梶井: アンケートの結果、ほとんどの患者が、矯正治療装置を装着したまま管楽器を演奏すると、「吹きづらい」「痛い」と感じていることが数字でハッキリと出てきました。特に高音域の吹きづらさ、口唇の痛みを伴うことが定量的に分かりました。

そこで、こうした痛みを和らげるためには、矯正治療装置と唇とのあいだにクッションの役割を果たす何かが必要になるのではと考え、オーダーメードタイプのプロテクターを開発することにしたのです。

実は、こうした事象を改善するためにプロテクターが販売されています。しかし、これは海外で製造された商品であるため、薬事法による厚生労働省の承認がおりていませんでした。また、矯正治療装置そのものに固定して使うものだったため、矯正治療自体を抑制してしまう恐れがありました。

そこで、すでに厚生労働省の承認がおりている材料を用いて、患者個人個人に合わせたオーダーメードのプロテクターを開発することにしたのです。

桜木: プロテクターの有無にかかわらず、同じ音を吹くのであれば同じような強さでマウスピースを当てることになります。そうなりますと、今矯正治療装置が付いている部分だけに集中して力が加わってきますので、プロテクターを使ってできるだけ分散させたいと考えました。また、より分散効果を高めるためには、患者ごとのオーダーメードのプロテクターを開発することが必要でした。材料は、顎関節症などの治療に使われる、歯科の中ではごく一般的な熱可塑性樹脂を使って開発しました。

その後、アンケート対象者に、オーダーメードのプロテクターを装着してもらい、再度管楽器を演奏してもらいました。そして、(1)高音域の吹きづらさ、(2)低音域の吹きづらさ、(3)口唇の痛み、(4)歯の痛みという同様の設問内容で、プロテクターの効果についてアンケートを実施したところ、個人差はあるものの、ほとんどのケースで吹きづらさや痛みが解消することが分かりました。

桜木: 今回、支援していただいたことでいくつかの材料で試行錯誤をすることができました。何種類かのプロテクターを試させていただき現在の形になりました。今は作成工程もスムーズになり、時間にして40分くらいで作成できるようになりました。

吹きづらさの平均値

痛みの平均値

トランペットなど金管楽器における
プロテクターの効果の一例

サクソフォーンなどのシングルリードにおける
プロテクターの効果の一例

樹脂を使ったオーダーメードのプロテクター