研究活動支援対象者の活動レポート

骨導超音波補聴器による和声知覚特性の解明独立行政法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門 中川誠司 主任研究員 インタビュー2011年10月25日 取材

骨導超音波補聴器は、どの程度ハーモニーを弁別できるのか

最重度難聴者に音楽を楽しんでもらうためには、音楽の3要素であるリズム・メロディー・ハーモニーをいかに忠実に再現できるかがカギになります。この3要素のうち、リズムとメロディーについては、これまでの骨導超音波の研究で、ある程度伝達できることが分かっていました。しかし、ハーモニー(和声)についてはほとんど不明のままになっていたのです。そこで、今回の「ヤマハ音楽支援制度」を受け、骨導超音波を利用した補聴器(骨導超音波補聴器)によるハーモニー(和声)の知覚特性について調べました。

中川: まずは、ハーモニー知覚の基礎となる周波数情報が正確に伝わるかどうかを調べました。これまでの研究で、骨導超音波は健聴者も難聴者もほぼ同じように聞こえることが分かっていますし、普通に耳で聞く「気導音」との比較を行うために、今回は健聴者5人に対して実験を行いました。

使用した音は、125Hzから8kHzの純音で振幅変調した骨導超音波です。ヘッドバンドに取り付けた振動子を、耳の後ろの骨の突出部に押し付ける形で骨導超音波を聞いてもらいました。そして、連続して提示した2つの音のうち、どちらが高い音高であったかを回答していただき、正しく答えられたときの2音の周波数の差を計測しました。

その結果、純音の周波数が250Hz~4kHzの範囲では、気導音と骨導超音波に大きな差は見られませんでしたが、125Hz以下や6kHz以上になると、気導音と骨導超音波で顕著な差が見受けられました(図2参照)。この結果は、音声の知覚にとって重要な周波数帯域とされる250Hz~4kHzの範囲では、骨導超音波補聴器が十分な周波数分解能を持っていることを示しています。一方、より幅広い周波数帯域を使用する音楽を聞いて楽しむためには、現段階では若干の問題がありそうだということも分かりました。

次の段階として、中川主任研究員は同じ装置を用いて、和音の知覚特性についても実験を行いました。被験者には、音楽の専門的教育を受けていない健聴者3名が選ばれました。

中川: 基準となる不協和音と、そこから段階的に協和音へ近づく和音を4種類作成(図3参照)します。被験者の方々に、基準の不協和音と比較対象の4和音のうちどれかをランダムな順番で続けて聞いてもらい、どちらが協和であるかを回答してもらいました。

結果として、比較対象となる和音の不協和度が低くなるにつれて被験者の弁別精度は上昇し、最も協和している和音との比較ではかなり高い精度で弁別できることが分かりました。ただ、気導音を用いた実験の結果と比較すると弁別精度は全体に低く、骨導超音波補聴器では正確に伝達できていない情報があるのではないか、と推測できます。

図1:補聴器本体と振動子を取り付けたヘッドバンド

図2:骨導超音波補聴器による周波数分解能特性
BCU=骨導超音波 AC=気導音

図3:実験時に提示した和音列

図4:和音弁別試験の結果