研究活動支援対象者の活動レポート

乳児の音声インタラクションにみる音楽の発達的分岐京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科 嶋田容子 研究員 インタビュー2012年01月31日 取材

京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科のアフリカ専攻非常勤研究員として、養育者と子どもの相互行為について縦断的に研究している嶋田容子研究員(以下、嶋田研究員)。そんな嶋田研究員の研究「乳児の音声インタラクションにみる音楽の発達的分岐」が、2010年度研究活動支援の対象になりました。今回はその内容について、京都府京都市左京区にある京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科の稲盛財団記念館で嶋田研究員にお話をお聞きしました。

子どもが見せる「声の重なり」に、どのようなモチベーションや意味があるのか

主に発達心理学における音声の分野について学び、「歌う」「泣く」など「人が声を出す行動」について研究を続けてこられた嶋田研究員。特に近年は、声を出す赤ちゃんとそれを聞く母親の関係についての考究を深め、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科の科研プロジェクトに参加しながら、養育者と子どもの関係の縦断的研究を進めておられます。その中で、ある忘れられない場面に出会ったことが、本研究の中心となる「声の重なるインタラクション」に関心を寄せるきっかけになったといいます。

嶋田容子 研究員

嶋田: 養育者ー子ども相互行為研究のデータ収集のため、数年前から日本の一般的なご家庭にお邪魔して、養育者と子どもが普通に生活している姿をビデオで撮影しています。その際に、複数の子どもたちが走り回って遊びながら、自然に「ワーッ」という声を合わせるようになり、その中から、歌のような発声が出てくる場面に何回か遭遇したのです。

どちらかが「ワーッ」と声を上げると、もう一方も「ワーッ」といって声を合わせる。それがいつしか歌のようになる。グチャグチャなやり取りの中から歌の原点を感じる発声が生まれたことは、非常に印象的でした。この事象に音楽性研究のヒントがある、とずっと考えていたのです。

アフリカの熱帯林に暮らすピグミー系バカ族の調査ビデオで、一人の子どもの歌声に呼応して大勢の子どもたちが声を合わせ、あっという間に多人数の見事な合唱になるシーンを見たことがあります(同研究科の矢野原佑史氏の研究)。このような「声の重なり」にはどのようなモチベーションや意味があるのか。このテーマについて研究を進めていくことで、発声が音楽的構造へと展開する発達のプロセスを捉えられるのではないかと嶋田研究員は考えていました。

そして、この探求心を後押ししたのは、「ヤマハ音楽支援制度」でした。

嶋田: ある学会でお会いしたヤマハ音楽振興会職員の紹介で「ヤマハ音楽支援制度」を知りました。また、以前から親交があり、共同研究も行なっている九州大学大学院芸術工学研究院の中島祥好教授も、こちらの制度の支援を受けられたことを知り、私も応募することにしました。