研究活動支援対象者の活動レポート

神経成長因子からみた楽器演奏が脳機能に与える影響北翔大学生涯スポーツ学部スポーツ教育学科 沖田孝一 教授 インタビュー2012年07月04日 取材

音楽療法による満足度上昇にともない、血清BDNFの数値も上昇

今回の研究では、音楽療法の施行前と後に血液検査や血圧・心拍数の測定を行い、BDNFの数値の変化を比較しました。実験では、有料老人ホームの入所者の中から、軽度の認知症を有する71~103歳の高齢者13人に協力を依頼しました。

沖田: 2011年8~9月の期間に、専門の音楽療法士を招聘して、13人の高齢者に合唱・楽器演奏を中心とした課題達成型の音楽療法を毎週2回ずつ4週間、つまり全8回のプログラムを継続して実施しました。1回の音楽療法の所要時間は練習時間を含めて60分で、童謡・ジャズ・ポップスなどさまざまな種類の楽曲を6曲使って、合唱や楽器の簡易的な演奏を行ってもらいました。

今回は参加者が高齢者だということもあり、実験開始時には、慣れない動作にストレスを感じた方や演奏が難しいと主張する方もいらっしゃいましたが、施設スタッフや研究協力の学生による細かなサポートのおかげで実験を継続することができました。最終的には、脱落者なくプログラムを終えることができたばかりか、参加者全員に顕著な合唱・楽器演奏技術の上達が見られました。この結果には、ご本人たちも大変満足してくださったようでした。

参加者・施設スタッフともに大きな満足・充足を得ることができた今回の実験。この全8回のプログラム前後に測定した各指標の数値を比較したところ、血清BDNFに有意な変化を見ることができたそうです。

音楽療法前後の血清BDNF(左:個別 / 右:平均)

沖田: 音楽を自ら練習して演奏するという高次の運動が、血中のBDNF濃度や脳機能に与える影響を検証する目的でしたが、今回は対象が超高齢者ということで、運動の要素を盛り込むことはできませんでした。しかし、それでもなお私の期待通り、音楽療法後にはBDNFの数値が上昇することが分かりました。

今回の実験結果だけで、BDNFが上昇した理由を明確にすることは難しいでしょう。しかし、参加者が熱心に練習に取り組み、最終的には音楽プログラムを間違えずに合唱・楽器演奏できるようになったという精神機能への効果を考えると、脳・精神機能の改善とBDNFの増加に深い関連があると推測できます。

音楽療法プログラムの様子

研究協力者