研究活動支援対象者の活動レポート

保育者の歌声に求められる「声質」に関する実験的研究学習院大学 文学部 教育学科 嶋田由美 教授 インタビュー2014年08月22日 取材

日ごろ接したり学んだりしている歌声により、嗜好の傾向は変化する

まずは、わらべうたの1節をコンピューターソフトで変化させ、実験に使用する音源を作成。1つ目はフォルマント(人が発する声に含まれる周波数の中で特徴的なピークのこと)の位置を高くしたものと低くしたものを作りました。2つ目として、ヴィブラートを機械的に抑えたものと振幅を大きくしたものを作成。3つ目にヴィブラートを付加したものとヴィブラートのないもの、そしてヴィブラートより振動が速いトレモロを付加したものを作りました。

実験は、これらの音源を実験参加者に聴いてもらい、好きな音源を選んでもらうという形で進めました。対象は保育園の5歳児クラスの子ども22名、音楽教育専攻の大学生(大学院生を含む)27名、幼児教育専攻の大学生16名としました。

志民:はじめは2つの音源を順に流して、どちらが良い印象だったかを聞いていたのですが、実験にものすごく手間がかかるうえ、特に子どもからデータを収集するのが難しかったのです。そのため、実験用にiPadアプリを開発し、簡単に音源を再生できたり、実験参加者が音源を再生した順番や再生した回数、選択した音源など実験過程を記録できたりするようにしました。

実験はそれぞれ、最初に1つの音源を聴かせて、次に示す3つの候補から「どの音源が同じものか」を再認・選択できるかを確認しました。そして、正答した人だけを「どの音源が好きか」という嗜好実験に進めることにしました。また、フォルマントを変化させた音源に関しては、変化を大きくしたやさしい問題と、変化を小さくした難しい問題を用意。やさしい問題を正答した実験参加者のデータのみを採用しました。

この実験の結果、子どもと音楽教育専攻の大学生はフォルマントを高くした音源を、幼児教育専攻の大学生はフォルマントを低くした音源を、それぞれ多く選びました。また、ヴィブラートを変化させた音源については、すべての対象において元の音源が多く選ばれました。3つ目の音源については、音楽教育専攻の大学生はトレモロを付加した音源を、幼児教育専攻の大学生はヴィブラートのない音源を最も多く選びました。

嶋田:このような結果は、日ごろから接したり学んだりしてきた歌い方・歌声に対する価値観、保育者についてのイメージ、教育観の違いが反映されているのではないかと考えています。また、今回の実験では、子どもと幼児教育専攻の大学生に嗜好の違いが出ましたが、子どもが実際に好む声と保育に関する大人の観点が異なるためにこの違いが出ているのだとすれば、今後十分に検討する必要があると思います。

写真1:協力いただいた社会福祉法人南大阪福祉協会ひかり保育園における実験の様子

画面1:実験で使用するために開発したiPadアプリの画面

画面2:今回の実験で使用した音源(変化前)のフォルマント

画面3:コンピューターソフトでヴィブラートを抑えた音源のフォルマント