研究活動支援対象者の活動レポート

乳児の歌唱聴取における脳反応とその発達理化学研究所 脳科学総合研究センター 言語発達研究チーム 山根直人 研究員 インタビュー2014年01月09日 取材

生後1年で、音と言葉を統合的に処理できていることが判明

今回の実験は、生後4~5カ月の新生児14名と、1歳の赤ちゃん11名を対象に行いました。実験方法としては、ベースとなるメロディーと歌詞を繰り返し聴かせ、その後に「メロディーだけが違う」、「歌詞だけが違う」、「メロディーと歌詞がどちらも違う」歌を合計16パターン聴いてもらい、脳の反応を近赤外線でチェックしました。

山根:具体的には、母親のひざの上で抱かれた乳児に、ケーブルがついた専用の帽子をかぶってもらい、光の反射によって血液中の酸化ヘモグロビンの量を測定することで、脳活動が活発化した部位を確認しました。また、できるだけ実験結果に別の要素による影響が生じないように、目前のディスプレイで乳児向けのテレビ番組を無音で映しつつ、補助者が音の出ない玩具で機嫌を取りながら実験を行いました。

実験結果ですが、まず、メロディーが一緒で歌詞だけが異なるパターンを聴いたとき、4~5カ月の乳児は脳の両側が活発に活動するのに対して、1歳の乳児の場合は脳の左側のみが活発に活動することが分かりました。このことから、1歳の乳児は、歌詞が違う歌に対して、言語的な側面を理解したうえで処理を行っていると考えられます。

山根:次に、歌詞が一緒でメロディーだけが違うパターンを聴いたとき、4~5カ月の乳児は脳の右側のみが活発に活動するのに対して、1歳の乳児は側頭葉周辺に特に有意な反応が見られませんでした。このことから、1歳の乳児は、歌のメロディーと言語の韻律とは別のものとして処理している可能性が考えられます。

さらに、メロディーと歌詞が両方とも異なるパターンを聴いたとき、4~5カ月の乳児は脳の右側のみが活発に活動するのに対して、1歳の乳児は脳の両側が活発に活動していました。この結果は、1歳になると大人と、同じようにメロディーと歌詞を統合的に処理しているのではないかと考えられます。

成人は、メロディーと歌詞を統合的に処理することができます。乳児も1歳になりますと、成人と同じように、入ってきた情報をすぐに処理するのではなく、情報を一度とどめておいてから的確な部位へ振り分けて処理するという、より高度な処理ができていることが分かりました。また、1歳児への実験の中で、歌詞が異なる場合には脳の左側が活動していたのに対して、メロディーが異なる場合に有意な脳反応が見られなかったことは、山根研究員にとって想定外の結果だったそうです。

写真1:防音設備内で、音の出ない玩具で機嫌を取りながら行った実験の様子

図2:本研究における実験デザイン

図3:各セッションにおける左右両領域における脳反応の平均波形

図4:双方セッションと歌詞・旋律セッションを平均した酸化ヘモグロビン変化量の平均値