研究活動支援対象者の活動レポート

楽音において身体性がもたらす効果の解析と理解電気通信大学 大学院情報システム学研究科 阪口豊 教授 インタビュー2015年07月08日 取材

電気通信大学の大学院情報システム学研究科で人間情報学について指導するかたわら、人間の身体のメカニズムについて、心理学と工学を組み合わせた独自の視点で研究を進める阪口豊教授(以下、阪口教授)。そんな阪口教授の研究「楽音において身体性がもたらす効果の解析と理解」が、2014年度研究活動支援の対象になりました。今回はその研究内容や実験結果について、東京都調布市にある電気通信大学調布キャンパスで、お話をうかがいました。

楽器を弾いているときの感覚をデータで解明したい

日常的な行動の中で、人間は目や耳をどのように働かせているのか、身体をどのように動かしているのかなど、人間の身体の動きや知覚の仕組みについて、これまでにない着眼点とアプローチで研究を進めています。その中で阪口教授は、楽器演奏時の「より効率的な身体の動き」や「より良いパフォーマンスを出すための身体の動き」に着目しました。

阪口:私は情報系・工学系の学部に属していますが、実験室内で人工的な設定での研究にとどまらず、生身の自然な感覚を重視したアプローチで、身体の技能について研究したいと考えていました。その課題の一つが、今回のテーマである「楽器演奏と身体の関わり」です。例えば、「弓を弦にどのようにあてれば、きれいな音が出せるのか?」「難しいパッセージを演奏するときに指をどう動かせばよいのか?」といったことは初学者であればだれでも疑問に思うことでしょう。私は、楽器を演奏する際に私たちの身体でどういったことが起きているのかを知りたいと思いました。そこで、演奏技能について調べる研究の第一歩として、演奏中の人のさまざまな状態を客観的なデータで見ることができないかと考えたのです。私が子どものころにピアノを習っていて、音楽が好きだった、ということもこのテーマを取り上げた理由の1つです。

阪口豊 教授

たとえば、楽器演奏を指導する際、指導者が生徒に演奏中の姿勢や楽器の持ち方に言及することはよくあります。しかし、指導者が自分自身の体験に基づく感覚について表現した言葉を、生徒がまったく同じ意味で受け取るとは限りません。これは、ひとそれぞれによって身体の感じ方が違っていたり、言葉の遣い方が違っていたりするためです。また、適した姿勢や楽器の持ち方は、生徒ごとに異なる可能性もあります。阪口教授は、こうしたことを理解するために、まずは演奏の実態に接し、多くのデータを収集する必要があると考えました。

阪口:演奏がうまい人とそうでない人の身体的なデータを比較して、この部分がまったく違うなどのことが分かれば、なぜそのような違いが生じているのかを理解したうえで、それに基づいた新しい練習法で指導できることになるでしょう。そのためにも、実態を知ることが大切ですので、まずは多くのデータを測定することにしました。聴覚や運動に関する研究は多数ありますが、その多くは実験室内の特定の条件で行なわれたもので、実際に楽器で曲を演奏する際の身体の状態を解明しようとする研究はこれまでほとんどありませんでした。今回は「ヤマハ音楽支援制度」を利用して、3つのテーマに基づく実験を実施しました。