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研究活動支援対象者の活動レポート

楽音において身体性がもたらす効果の解析と理解電気通信大学 大学院情報システム学研究科 阪口豊 教授 インタビュー2015年07月08日 取材

演奏中の振動・身体状態による音の変化・呼吸との関連性を計測

阪口教授が選んだ3つの実験テーマは「演奏中の身体の振動状態の計測」、「演奏者や身体状態に依存した楽器音の違いの解明」、「演奏中の呼吸タイミングの計測・分析」。まず1つ目の「演奏中の身体の振動状態の計測」では、バイオリン奏者2名、チェロ奏者1名、フルート奏者1名(いずれもアマチュア)を対象とし、楽器演奏時に身体のどの部分が振動しているか計測しました。

阪口:演奏家たちからよく「楽器と身体は一体」という話を聞きますが、この実験は「楽器を弾いているときに身体も鳴っているのか」という単純な疑問から発想したものです。肘・肩・背骨・鎖骨・胸骨・肋骨・骨盤などに近い皮膚に振動を検出する計測器をつけて楽器を演奏してもらい、体の振動を計りました。その結果、演奏者の身体の多くの部位から楽器から出るものと同じ振動成分を見ることができたのです。特に、楽器が支える肩や胸、腕だけではなく、直接当たらない背骨から安定した振動が計測できました。多少飛躍した考えですが、この結果は、楽器を弾く際には身体の中心である体幹や脊椎が楽器の響きに関わっている可能性を示唆しているものと考えています。ただし、今回の実験で得られた結果はあくまで予備的なもので、このような可能性を検証するには今後さらに精密な計測をする必要があります。特に、今回用いた接触型の計測器による測定にはいろいろな課題や制約があるため、今後は非接触で振動状態を計測できるセンサーを使った実験を考えています。

また、2つ目の「演奏者や身体状態に依存した楽器音の違いの解明」では、身体の状態によって音質は変わるのかを確かめるため、クラリネット奏者2名(専門家1名、アマチュア1名)、バイオリン奏者1名(アマチュア)の演奏音を収録。随時トレーナーが「身体の効率的な使い方」について指導を行いつつ、音の変化を観察しました。

阪口:トレーナーが演奏者に一種の体操のような指導を行い演奏する、という流れを繰り返し、音の変化を聞き比べました。聞き手は、スタジオ内に同席して指導の様子を見ながら聞き比べる群と、そうした情報なしに別室で音だけを聞き比べる群に分類。音を聞くだけで違いが分かるかどうかを実験しました。その結果、明らかに指導の前後で音質が異なる、と多くの人が感じました。ただ、その一方で、時間の経過とともに指導の効果が薄れ、元の音へともどってしまう場合もありました。今後は、音を信号処理して波形を比較するなどの手法も視野に入れつつ、今回分かった音質の変化をより明確なデータとして収集できるような実験を進めていきます。

さらに、3つ目の「演奏中の呼吸タイミングの計測・分析」では、ピアノ奏者15名(専門家演奏者およびアマチュア)を対象として、さまざまな楽曲を演奏している際の呼吸を計測。結果を分析して、演奏と呼吸のタイミングとの関係性を観察しました。

阪口:さまざまな運動において、身体の動きと呼吸が同期することはすでに学会でもいろいろと発表されていますが、私は演奏者にとってより大切な「息継ぎ」のタイミングについて調べることにしました。演奏者にセンサーを装着して、いつ吸息・呼息が開始するかを測定した結果、演奏者によって呼吸のタイミングが明らかに異なることがわかりました。このことは、演奏者の楽曲に対する解釈や構え、表現方法を反映している可能性を示唆しています。また、楽曲の構造(休符、スラーなど)に呼吸のタイミングが依存することも分かりました。さらに同一演奏者においても、ハノンなどの機械的な練習曲では息継ぎのタイミングに一貫性が見られず、演奏動作と呼吸が独立している可能性があることが分かりました。

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