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研究活動支援対象者の活動レポート

超絶技巧を生み出す運動技能の解明上智大学 理工学部 古屋晋一 准教授 インタビュー2016年08月01日 取材

演奏中の手指の動きをデータ化し、機械学習の手法で解析

実験への参加を依頼したのは、音楽大学でピアノを専攻している学生、もしくは過去にピアノを専攻していて、運動器疾患の病歴がないピアニスト。50名の参加者の中には、国際コンクール入賞者も含まれています。そのピアニストたちに、ショパンの練習曲から抜粋した短い旋律を、右手で演奏してもらいました。その際、「できるだけ速く、できるだけ正確に演奏してほしい」と依頼し、これを50回繰り返してもらいました。

古屋:ピアノからMIDI情報を取得し、鍵盤に取り付けたセンサーで打鍵の速度を計測しました。さらに、スポーツ選手の衣類に用いられる、薄くて軽い素材を利用した独自のデータグローブを作成。手指にある5本の指、3つの関節、合計15関節にある筋肉が曲げ伸ばしする際の関節運動を計測しました。ほかにも、手首、肘、肩、指の運動神経など、20前後の項目をデータとして取得しました。

実験でデータを取得し、多変量解析という統計手法で解析した結果、あるデータとデータの間に2つの相関関係が見られました。1つは、鍵盤をたたく速さと指の運動神経です。そしてもう1つは、同じく鍵盤をたたく速さと二の腕の外側にある筋肉の強さです。

古屋:打鍵の速さと指の運動神経の相関関係は、想定内の結果でした。驚いたのは、二の腕の筋力が強い人は、和音の連打が速く弾けるという相関関係です。このことは、ほとんどのピアニストが意識していない事象でしょう。一方で、速さと握力はマイナスの相関関係が出ました。強い音量で速く弾くときには握力は関係ありませんが、弱い音量で速く弾くとき握力はむしろ邪魔をする、ということがわかったのです。

こうした結果から、練習量の多さとできるだけ速くピアノを演奏できるようになることに、関係はないことがわかりました。同じように、早いうちからピアノを始めることは、演奏の正確さと関係があるものの、速度とは関係がないようです。

古屋:速度と正確さに相関関係はなく、別のメカニズムだと考えられます。このことから、スピードを上げる練習と、正確さを上げる練習はそれぞれ独立していて、身に付けるためには両方をちゃんと鍛えることが必要だということがわかります。ピアニストの中には、がむしゃらに反復練習する人も多いですが、それは時間が無駄になるばかりか、体を痛めるリスクを高めます。必ず事前に練習の目的を決めてから練習することが必要です。

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