研究活動支援対象者の活動レポート

琉球列島における民謡の文化進化東京大学 理学部 井原泰雄 講師 インタビュー2016年10月19日 取材

さまざまな分析や考察を、引き続き詰めていきたい

今回の分析により、琉球民謡の多様性に集団構造があることが示されました。つまり、同じ方言グループの民謡は、他グループの民謡に比べて類似性が高いということです。ほかにも、民謡の文化進化に民謡ジャンルによる違いがある可能性が示されました。まだまだ詰めていく必要はあるとのことですが、今回、先行研究よりも豊富なデータと異なる視点での分析を実施できたことで、より深い考察ができたと井原氏はいいます。

井原:今回実施したさまざまな分析を通じて、いくつかの考察を進めることができました。1つが、人の移住との関連性です。先行研究において、沖縄諸島と宮古諸島の人々のあいだには、遺伝的差異があり、八重山諸島の人々はその中間に位置するとされています。今回の分析では、方言グループ間の民謡の類似性が人の移住の歴史に部分的に対応している可能性があります。

また、長いあいだ人々が伝承を続けてきた民謡という文化形質を、今回の研究対象としたことで文化保存という面でも貢献できたのではないか、と話す井原氏と西川氏。今後は、まだ分析や考察を詰め切れていない部分について、引き続き従事する予定だといいます。

井原泰雄 講師 と 西川有理 氏

西川:加えて、今回の分析は、1963~91年に録音された民謡を収録した『日本民謡大観』(日本放送協会編 1989-1993)という本を基盤としています。同時に、私は沖縄・奄美地方の各島を訪れて、現地の歌い手の方々に民謡を歌っていただき、それを録音してきました。もしかしたら、本の出版から現在までのあいだに民謡が変化している可能性がありますから、そこを分析してみたいですね。

さらに、今回の分析を足がかりに、「ヒトはなぜ音楽を生み出し、音楽に熱中してきたのか」など、音楽に関わるヒトの行動についても、数理モデルを用いて分析していきたいと語る井原氏。今後も、独自のスキームを用いて、行動としての音楽をさらに研究していかれることを期待しています。

支援対象者プロフィール(取材時)

井原泰雄 講師

東京大学 理学部

支援対象研究

課題名
琉球列島における民謡の文化進化
研究期間
平成27年4月~平成28年3月