研究活動支援対象者の活動レポート

大規模コンペティションデータを活用した現代ピアノ教育過程の数理的分析東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター
本間裕大 准教授 インタビュー
2017年11月09日 取材

建築都市システム、社会システムの数理的解析を専門分野とし、都市環境システムに関する諸問題に対して、数理モデルというフィルターを通すことで、問題の解決や構造の把握に向けたさまざまな提案をおこなっている本間裕大准教授(以下、本間准教授)。そんな本間准教授の研究「大規模コンペティションデータを活用した現代ピアノ教育過程の数理的分析」が、2016年度研究活動支援の対象になりました。今回は、この研究テーマに着目したきっかけと、その研究内容について、東京都目黒区にある東京大学生産技術研究所で、お話をうかがいました。

ピアノ教育の技術発展について、数理モデルを用いて分析したい

3歳から18歳までの生活を、ピアノ演奏に明け暮れていたという本間准教授。そこから一転して慶應義塾大学で応用数理学系に興味を持ち、社会現象や都市現象を微分方程式などの数式で表現し、分析することに熱中し始めたそうです。そして博士論文が終わる2007年ごろ、当時の指導教員と「何らかの技術の発展について数理モデルを作って分析しよう」と話したことが、今回の研究の発端になっているといいます。

本間:自分の経験から、ピアノは切磋琢磨により技術が発展してきた最たる例だと思いました。コンペティション(コンクール)で最も上手な演奏者を参加者全員が目の当たりにし、そのレベルを目指してみんなが努力する。おかげで回を重ねるごとに演奏者のレベルがどんどん上がっています。1995年当時は高難度と思われていたショパンのエチュードも、今では誰もが弾いていますから。しかも、コンペティションを開催していた(社)全日本ピアノ指導者協会(以下、ピティナ)には、その詳細な参加者データが残されています。そのデータがあれば、ピアノ教育の技術発展を数理モデルによって研究することは可能だと考えました。

実際にピティナのコンペティション参加者だった本間准教授は、ピティナの福田成康専務理事にその構想を話し、膨大な参加動態データを入手します。また、研究を開始するための準備を進めていく中で、より幅広い角度からピアノ教育の技術発展を分析していくための手法を着想しました。そのきっかけとなったのは、本間准教授のお母様だったそうです。

本間裕大 准教授

本間:実は私の母も研究者で、社会学を専門分野としています。その母との議論から、ピアノ教育という文化の技術発展について分析するのであれば、社会学や文化人類学の視点も採り入れる必要があると感じました。そして今回は、ピアノ教育における「師弟関係」と「楽曲習得過程」に関するネットワークと距離について、時間・空間・難易度という3軸で展開されるピアノ教育の過程を定量的に解析。教育者が感覚的に認識していた仮説の可視化や、新しい知見を創出したいと考えました。

まず予備実験を実施して、その結果と考察をヤマハ音楽支援制度の面接時に報告。諸事情によりずっと着手できていなかったこの研究を、2016年度の支援対象に選ばれたことで、本格的に始動させることができました。