研究活動支援対象者の活動レポート

テンポ変化の認識およびテンポ変化が聴き手に与える印象に関する研究同志社大学 理工学部 山本誠一 教授 インタビュー2017年06月22日 取材

楽器演奏経験の有無により、テンポ変化の知覚に差異が生まれる傾向

山本教授は今回、聴き手の「テンポ変化の認識」と「テンポ変化がもたらす音楽的印象への影響」という2つの視点から、研究を進めました。2015年度には先行して、音楽経験が異なる聴き手に、テンポを徐々に変化させたピアノ音による音列を聴いてもらい、変化への気づきの違いを評価する実験を行いました。そして、楽器演奏経験の違いにより、テンポ変化への気づきのタイミングも異なることが分かりました。この結果を受けて、2016年度には楽器やリズムが異なる音源を用いて、被験者数と楽器演奏経験を拡張。聴き手がテンポ変化を認識するときの差異を明らかにすることにしました。

山本:これまでの実験で使用してきたピアノ音に加えて、パルス音とスネアドラム音を新たに音源として採用しました。最初は120BPM(1分間に120拍打つこと)というスピードで鳴らしていた単音を、徐々に144BPM、132BPM、108BPM、96BPMへとそれぞれ変化させています。さらに、テンポの変化パターンとして直線的に変化するもの、指数的に変化するもの、その2つの中間的に変化するものの3種類を用意しました。また、被験者数と音源の種別数を大幅に増やして実験を行うため、複数の被験者が同時に実験できるシステムも開発しました。

実際の実験では、被験者がヘッドホンを装着して試験音列を再生し、テンポの変化を知覚したら試験音列の再生を停止。そして、テンポが速くなったか遅くなったかを回答する、という形で進めました。被験者は、楽器演奏経験のない「未経験者」、ピアノやバイオリンなどのソロ演奏を主とする「ソロ奏者」、チェロやコントラバスなどのアンサンブル演奏を主とする「アンサンブル奏者」の3グループ、合計62人で行いました。

山本:これまで収集したデータを基に、「グループごとのテンポ知覚の違い」と「音の種別の違いによるテンポ知覚の違い」について傾向を探りました。音の種別の違いについては、被験者が変化を知覚するまでの拍数に、明白な違いは検出されませんでした。一方で、グループごとの違いについては有為な結果が得られました。例えば、楽器演奏経験者(ソロ奏者とアンサンブル奏者)は未経験者と比較して、テンポ変化の知覚に敏感です。特に、テンポが遅く変化する場合にその傾向が顕著でした。

他にも、アンサンブル奏者は、ソロ奏者よりもテンポ変化の知覚に敏感であること、ソロ奏者は、テンポが遅くなる場合は未経験者よりも敏感で、テンポが速くなる場合は未経験者と同等もしくは知覚のタイミングが遅くなる傾向がありました。この後者の研究成果について、山本教授は特に重要と考えています。

山本:アンサンブル奏者とソロ奏者は、速くなる場合と遅くなる場合で正反対の傾向を示しました。これは、楽器演奏時に無意識に演奏が走る(テンポが速くなる)ことがありますが、遅くなることは少ないからと考えられます。また、ソロ奏者は自分の解釈でテンポを変化させる自由があるのに対して、アンサンブル奏者はテンポを周囲と正確に合わせなければならないことから、テンポが速くなることに敏感なのではないかと考えています。

図1:ピアノ単音が120BPMから96BPMへ変化したときの、グループごとの認知拍数

音源1:図1で使用した音源(直線的に変化)

図2:ピアノ単音が120BPMから144BPMへ変化したときの、グループごとの認知拍数

音源2:図2で使用した音源(直線的に変化)