一ヶ月前、意外にもこれがオリジナルとして初めてとなるCDをリリースした岩内佐織。オリジナルアルバムを待ち焦がれていたファンは多く、2016年4月10日のリリース記念コンサート当日までに何度も聴き込んでいた人も少なくなかったはず。
そんなファンの期待でしっかり暖まったコンサートの会場は、ヤマハ銀座スタジオ。YMF ELECTONE LIVE Vol.17『岩内佐織ファーストアルバムリリース記念コンサート ~未来のトビラ~』は、誘うような静かな川のせせらぎの音とともに『川のほとりで』から始まった。 澄んだギターとピアノの音色が川面に反射する光のようにきらめき、徐々に大きく雄大な流れへと移ろっていく、京都・宇治川の風景を切り取った大きな温かさに満ちた『川のほとりで』。新緑のこの季節にぴったりの世界観にじっくりと浸る。
前半、CDで共演したバイオリニスト・山本理紗が登場し、岩内にとって思い入れの深い『セレナーデ』をデュオで演奏。二人が奏でる弦の音色が呼応し合い、荘厳な空気が生み出されていく様が、大きく琴線に触れる。悠久の時の流れが1音1音の重なりで巧みに表現される『水琴の庭』もしかりで、温かな音に心地よく身をゆだねる。
和楽器をふんだんに取り入れたミステリアスな『能面=OMOTE=』をインターミッションとして差し込み、スペシャルゲストの作曲家/ピアニスト・村松崇継の登場を前に、まずは『天使のくれた奇跡』を、岩内のソロで。この日が初演の新作アレンジ、しかも作曲家本人の目の前での演奏ということで「なんて度胸のいることなんでしょう!」と、ことさら緊張する1曲となったようだが(笑)、メロディーとオーケストラの立体感、スケール感が曲の大きさを一層際立たせていた。
ヤマハ音楽教室出身の村松はこれまでにジブリ作品、NHK連続テレビ小説ほか映画やドラマの作品を数多く手掛ける若手作曲家。岩内はこの日の共演を「夢のよう」と語ったが、村松にとっても岩内は憧れのプレイヤー。
尊敬し合う音楽家同士、岩内のエレクトーンと村松のピアノというデュオで奏でられた『生命の奇跡』、そして『彼方の光』はこの日だけのスペシャルプログラム。繊細な音が会場のすみずみにまで響きわたり、音の粒子に包み込まれるような体験をすることができた。作曲家としてのカラーも近いものがある二人だからこそ、染まり合いまた発色し合っていたように感じた。
『彼方の光』を弾ききったあと、その達成感から「もうお開きにしてもいい!」と断言した岩内だが、私たち貪欲な聴衆はまだまだ聴きたい(笑)。
幾多の温かさがあふれてきたここまでのプログラムと方向を転換し、まさにラストスパートな、香港の混沌とした情景を浮き立たせるスリリングな『Rhythm Junction~Hong Kong~』で観客をかき立てる。さらにラストプログラムにはアルバムタイトル曲でもある『未来のトビラ』が用意された。前向きに生きる仲間への応援歌として生まれたこの曲は、力強いメロディーが聴き手の背中をグイッと押してくれるようなポジティブなパワーに満ちている。壮大なサウンドと躍動感には圧倒されるよう。