開設当初のテキストからもうかがえる、独自の「総合音楽教育」
唐突ですが、ヤマハ音楽教室が1960〈昭和35〉年4月に発行した幼児向けのテキスト『幼児の本』に掲載されている、保護者向けメッセージの一節をご紹介します。 「音楽性を豊かにすれば、教養が高まると同時に、将来の生活を明るくいたします。そしてそのためには、ピアノやオルガンのような鍵盤楽器だけの学習でなく、これらの楽器を通して、もっといろいろな面での音楽の勉強をすることがいちばんの近道です。そのような勉強のしかたを身につけることによって、歌や読譜、ハーモニーやリズム等の、音楽の総合的な基礎も、やさしく理解できるようになります(原文ママ)」。
今から55年前に作成した、幼児向けの教材テキストの中で、現在も音楽教室の基礎となっている教育システム「総合音楽教育」について、このように説明しています。「きく」「うたう」「ひく」「よむ」「つくる」という5つの要素を総合的に学習する、ヤマハ音楽教室独自の教育システムは、このときからすでに形作られていたことがうかがえます。また、ヤマハ音楽教室の特徴である「適期教育」についても、同じように『幼児の本』のメッセージ内で言及しています。
この教育手法は洗練を重ねながら現在まで続けられており、「きく」「うたう」「ひく」「よむ」「つくる」の5つの要素を、生徒の発達段階や理解力に応じて組み合わせる、ヤマハ音楽教室独自の「適期教育」「総合音楽教育」として結実しています。 私たちは 1954(昭和29)年4月に実験教室を開始して以降、ずっと子どもたちを見つめ続け、教育システムの開発に取り組んできました。ヤマハ音楽教室に幼児科が開設されたのは 1969(昭和44)年のことですが、『幼児の本』が発行された 1960年の段階で、子どもたちに楽しみながら学習を続けてもらう教育メソッドは、既に確立されていたと言えます。
長い年月を経ても、変わらない音楽教育の理念
この後、ヤマハ音楽教室のテキストは、1965(昭和40)年に『じゅにあー』、1969(昭和44)年に『幼児のほん』と名前を変え、1972(昭和47)年には現在も幼児科で使われている『ぷらいまりー』の名称のテキストの初版が発行されます。これらのテキストは、実際の教室運営を通じて得られたノウハウ、生徒や保護者の方々からいただいたご意見、時代によって変化する文化や社会環境に合わせて、その曲目や挿絵など内容を少しずつ改訂してきました。 しかし、私たちが一貫して伝えたいメッセージは、50年以上が経過した今も変わりません。それぞれのテキストにも、言葉や表現こそ違いますが、同じ思いを込めた文章を掲載しています。ヤマハ音楽教室が 1つの理念をかたくなに守り、全国各地で幼児科の教室を展開し続けてきたことがお分かりいただけると思います。 幼児期の子どもたちに、お友だちといっしょに、さまざまな音楽を楽しんでもらい、豊かなこころを育んでいきたい。ヤマハ音楽教室ではこの思いを変わらずに、生徒や保護者の方々へお伝えしていきたいと考えています。