ヤマハ音楽支援制度は、優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待される若手音楽家への支援として「音楽奨学支援」(13歳以上~25歳以下)を実施しています。
今回は2018年度の支援対象者で、現在、スイスのチューリヒ芸術大学学士課程3年でチューバを専攻されている夏目友樹さんにお話を伺いました。
プロフィール:夏目友樹(ナツメトモキ)1992年生まれ、兵庫県宝塚市出身
2015年に関西学院大学経済学部を卒業後、1 年間の会社員生活を経て
2018年 9月にチューリヒ芸術大学に入学。
2016年11月 ポルチア国際チューバコンクール(イタリア)ファイナリスト・ディプロマ取得
2017年11月 モスクワ音楽院国際コンクール(ロシア)チューバ部門第2位
また、夏期オーケストラアカデミーのオーディションに合格し、アジアユースオーケストラ(2014年)、ヴェルビエ祝祭管弦楽団(2017年)、ルツェルンフェスティバル・アカデミー管弦楽団(2017年)、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団(2018年)など多くの音楽祭、アカデミーのメンバーとして参加。現在、チューリヒ芸術大学学士課程3年チューバ専攻。これまでに、チューバをアネ=イェレ・フィサー、鈴木浩二、吉野竜城の各氏に師事。
音楽を始めたきっかけ
たまたま住んでいた地域の中学校が吹奏楽部活動に力を入れており、兄がその吹奏楽部でバストロンボーンを吹いていたことも後押しし、入部と同時に音楽を始めました。
当初は音楽が大好きというよりも、楽器が思うように吹けない自分に対して負けたくないという気持ちが大きく、特に何の目的も持たずに、上手になりたい一心でただただ練習をしていました。
高校1年生の時にCDショップで何となくクラシック音楽のコーナーを見ていると、たまたまチューバソロのCDを見つけて購入しました。当時、チューバを吹いていたにも関わらず、チューバは長い音とリズムパートしか吹けないと思い込んでいた私は、そのCDを聴いて「しまった、間違えてユーフォニアムのCDを買ってしまった」と大きく落胆しました。でも、どう見てもジャケット写真がチューバだったので混乱しつつも「チューバでも音楽ができるのか!」と、とてもうれしく思ったことを今でも鮮明に思い出します。その後、ますます音楽にのめり込んでいきました。
印象に残った経験・先生・レッスン
大学受験時に音楽大学に行きたいなという気持ちも少しありましたが、心配性で保
守的な私は挑戦する勇気すら無く、結局経済学部に進学し、就職をしました。
ただ、大学生活の最中も就職後にも、これが本当に自分のやりたいことなのか、このまま
挑戦しないで本当に幸せと言えるのかと自問自答を繰り返し、たとえ可能性が少なくても、最低でも夢に向かって挑戦はしようと決意しました。
今の先生に出会ったのは、会社員時代に受けたヤマハの浜松国際管楽器アカデミーに参加した時で、先生のお人柄と、自分の長所や短所を瞬時に見抜いて導かれるレッスンに衝撃を受け、先生を追いかける形でスイス・チューリヒに留学することを決めました。
入学してからはクラスメイトから受ける衝撃も強く、テクニックや音楽性など彼らから学ぶことは非常に多いです。良き友であり、またオーディションやコンクールではライバルでもある彼らと一緒に切磋琢磨しあえる環境は私にとっての宝物です。
留学生活も早いもので丸2年が経過しました。この間にたくさんのコンクールや夏期オーケストラアカデミーに参加しました。2017年に参加したモスクワのコンクールでは、ありがたいことに第2位を受賞し、最終審査ではオーケストラをバックに2曲のコンチェルトを演奏させていただきました。音楽を勉強すると決めた時に目標に掲げていたことの一つだったので、私にとって忘れられない経験となりました。
影響を受けた音楽家
今年参加したシュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団では7週間にわたり、たくさんの室内楽・オーケストラ作品を素晴らしい音楽家たちと共演させていただきました。中でもとても印象的だったのは、指揮者クシシュトフ・ウルバンスキさんとの共演です。
アメリカ・インディアナポリス交響楽団の音楽監督で、ドイツ・NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(旧北ドイツ放送交響楽団)の客演指揮者でもある彼は若干35歳。ですが洗練された音楽と熱いエネルギーは圧巻でした。特筆すべきは、彼はリハーサル時から全て暗譜で指揮・指導を行い、小節番号や細部にわたる音楽記号まですべて覚えています。その理由を「私はまだ若いため、楽譜を追っているとオーケストラの団員に舐められてしまう」と話されています。私は共演を通して、10歳と離れていないウルバンスキさんがその若さにして第一線で活躍され、しかもそれがご本人のたゆまぬ努力の成果だと実感し非常に感動しました。その音楽に対する姿勢やお人柄など、多くのことを彼から学びました。
今後チャレンジしたいこと、将来の夢など
チューリヒでの学士課程は残すところあと1 年となりましたが、このままヨーロッパで修士課程に進学しようと考えています。私の今の目標はオーケストラ奏者になることですが、僭越ながら将来はソリストとしても活動していきたいとも思っています。チューバはオーケストラや吹奏楽・金管アンサンブル等に無くてはならない存在なのに、悲しいことに、まだチューバ単体で音楽ができるという認識は浸透していません。
チューバは、金管楽器の中では音域がとても広く、力強い金管楽器としての音色はもちろんのこと、チェロのようなしなやかな音色も持ち合わせています。また特殊な奏法により様々な音響効果を作ることができるため、ソロ楽器としての魅力・可能性も十分に持ち合わせていると私は信じています。たくさんの方々に音楽の魅力、チューバの魅力をお伝えできるような音楽家になるために、また、人としてももっと成長できるように、これからもより一層まい進していきたいと思っています。