第2回 ヤマハジュニアピアノコンクール

審査員コメント

青柳 晋(ピアニスト、東京芸術大学准教授)

私たちが生活するこの現代ほどマニュアルというものに囲まれた生活はありません。例えば、コンビニでもレストランでも、店員さんはマニュアルに沿った対応をしてくれて、そのおかげで私たちは円滑に生活できますが、一方で、イレギュラーなこと等が起きたときにどうしていいかわからなくなってしまうのではと危険に思うのです。
みなさんの演奏を聴いていて少し危惧の念を抱いたことがあるとすれば、楽譜というものを決してマニュアルとして捉えないで欲しいということです。どの作曲家も、その思いやメッセージがあって、それを最も端的に後世の人に伝えようとして記譜をしました。楽譜は単なる記号に過ぎないのです。ですから、音符と音符の間にあるもの、その空白にいかにイマジネーションを働かせて、作曲家の思いに到達するかということがとても大切です。
狭い世の中ですから、どこかでまた私たちの道が交差する場面もあるかと思いますが、みなさんの成長された姿とまたどこかで触れ合える機会がありますように、祈っています。

今峰 由香(ピアニスト、ミュンヘン国立音楽大学教授)

私も幼児期からヤマハ音楽教室で育ち、現在はドイツで教鞭をとる生活を送っています。普段いろいろな国の生徒をレッスンしていますので、そういった視点から日本のみなさんの演奏を聴いた感想を述べさせていただきます。
日本の方は概して、今日のみなさんくらいの若い頃は個性がいきいきと輝いているのですが、成長していくとともに、多かれ少なかれ似通ってきてしまうという印象があります。人とちがうことを恐れないで欲しいし、間違えることを怖がらないで欲しいと思います。そして本当に自分の表現したいことを思い切って表現していって欲しいと思います。
才能に溢れ、いろいろな可能性を持ったみなさんですので、これからの将来をとても楽しみにしています。

上原 彩子(ピアニスト)

まだペダルに足が届かないような出場者の方たちが補助ペダルを抱えてステージに出てくるところを心配しながら見ていたのですが、ピアノの前に座ると、みなさん本当に堂々として、自信に満ちあふれ、いきいきと演奏されていました。また、それを支える保護者のみなさんの気持ちを想像すると胸がいっぱいになる思いで、とても幸せな時間を過ごさせていただきました。
今回、2度目の挑戦をされた出場者の方もたくさん居て、審査員席でみなさんの1年間の成長をとても嬉しく聴かせていただきました。今日の結果にこだわらずに、成長をまた聴かせていただける機会があれば本当に嬉しいと思います。どうかこれからも頑張ってください。

パスカル・ドゥヴァイヨン(ピアニスト、ベルリン芸術大学教授、英国王立音楽院客員教授)

コンクールは、たくさんのことを一度に勉強できるとても良い機会ではありますが、当然勝ち負けという結果が出てしまうものです。しかし本来は、自分自身との戦いが一番であって、他の人と比べるのではなく、今日の自分より明日の自分がもっと良くなるようにと前を向いて、そして「音楽をする」ということを重視していただきたいと思います。
コンクールは自分の成長のためにとても良いものではありますが、あちこちのコンクールを渡り歩いてたくさん勝とうという目的には絶対にして欲しくないのです。人生のひとつの糧として、自分がより良くなる一つのきっかけとしてコンクールというものを受けていただけたらと思います。コンクールの第1位というのは「音楽」なのですから。

松居 慶子(ピアニスト、作曲家)

一人でこの大きな舞台でピアノを弾くという経験は、さぞかしプレッシャーで大変だったろうと思いますが、みなさんの音に向かうひたむきな姿が、それぞれとても個性的で、感慨深いものがありました。課題曲、自選曲、課題編曲と、本当にいろいろな形で個性が表れていて、審査がとても大変でした。
コンクールはひとつの過程です。この後、ぜひ夏休みもエンジョイしつつ、さらに精進されて、そして経験もいっぱい積んで、豊かな気持ちと豊かな音をまたピアノを通して届けていただけたら嬉しいです。

山田 武彦(ピアニスト、作編曲家、洗足学園音楽大学教授)

このコンクールはとてもユニークで、課題曲と自選曲、課題編曲があります。たとえば役者さんが、伝統的で古典的なお芝居と、自分の好きな、得意な役になりきるお芝居、それから、役者さんが自分自身の言葉で語るお芝居という、3つのお芝居を発表するような場なのだろうと思います。自分自身の言葉で語ることによって、尚の事、伝統的で古典的なものを作った作曲家がどんな風に曲を作っていったのかということに、敬意を払ったり、愛着を感じたりすることにつながるのではと思います。
このコンクールで演奏した曲を、みなさんが10年後、20年後、30年後にまた演奏するかどうかはわかりませんね。ただ、たとえ形を変えても、この先ずっと音楽を大好きで居続けることに挑戦していただけたらと思います。今日のコンクールがそのきっかけになればと願っています。

ラルフ・ナットケンパー(ピアニスト、ハンブルク音楽大学教授)

今日、この舞台でピアノを演奏したということ自体が、大きな賞をもらったのと同じことで、とても幸せなことではないでしょうか。
コンクールには、動機、モチベーションを高めていくことが非常に大切です。今日出場されたみなさんは、いつも一生懸命に白黒の鍵盤と向かい合っていることでしょう。しかし、ピアノ以外のこと、例えば、オペラや歌、管楽器であるとか、さまざまなことに興味を持って、ピアノだけにならないよう、視野を広くもって欲しいと思います。いろいろな曲を聴いたり、その作曲家が何を考え、どんな時代だったのか、曲の背景にあるものを学んで欲しいのです。これからもぜひ勉強を続けていってください。

  • 五十音順、敬称略

左から、青柳晋、今峰由香、上原彩子、パスカル・ドゥヴァイヨン、松居慶子、山田武彦、ラルフ・ナットケンパー