第1回 ヤマハジュニアピアノコンクール

審査員コメント

青柳 晋(ピアニスト、東京芸術大学准教授)

大きなプレッシャーのかかるこのような会場で、みなさん最後まで立派に演奏されました。
みなさんと同年代の生徒さんをレッスンすると、難しい曲を弾くことに抵抗がなく最後まできちんと弾けるけれども、ではこの曲についてあなたはどんなイメージを持っていますか?とか、この曲にはどんな魅力がありますか?と質問すると、ほとんどが答えられません。これはとても困ったことです。
いまは一部の大人たちが楽しいことを次々と考えてくれる時代で、みなさんはそのレールに乗っているだけで次々と楽しいことが体験できます。しかし、受身になることなく、面白い発想力を養ってください。そしてこのような舞台に立ったときには、書かれた音符を再現するだけでなく、面白いことを次々と発信できる、そんな個性を持って欲しいと思います。

今峰 由香(ピアニスト、ミュンヘン国立音楽大学教授)

小さな身体で心から音楽を表現してくれて、大変楽しく、素晴らしかったです。これまで支えてくれた保護者の方、指導してくださった先生方への感謝の気持ちを忘れないでください。
コンクールという目標に向かって努力することはとてもいいことですが、その結果はこの先の音楽人生の過程に過ぎません。残念ながら思うような結果とならなかった方や、このステージに立てなかった方にも、この先に本当にたくさんの可能性が広がっていると思います。
私たちがやっているのは、小さなお子さんであっても芸術です。芸術は、成熟するまでに時間がかかるものです。目先のことだけにとらわれずに、音楽を心から楽しむこと、音楽に感動したり感じたりすることは人間が生きていく上で絶対に必要な、大切なことだと思います。音楽が一生の友だちになって、ご自身の人生が豊かになることを願っています。

上原 彩子(ピアニスト)

自分がコンクールに挑戦していた頃を思うと、みなさん落ち着いて演奏されていて、本当に関心しました。明日からでも演奏家としてやっていけるくらい、テクニックが素晴らしかったです。
これから心も身体も大人になっていく時期だと思いますが、音楽も心や身体と一緒に成長していって欲しいなと感じました。今までは先生と一緒に音楽を作っていくことがほとんどだったと思いますが、これからは、自分が何を表現したいのかをしっかりと考えていって欲しいと思います。自分の頭で考えるようになると、壁にぶち当たったり、今までより弾けなくなってしまったりすることもあると思いますが、周りの人に支えてもらいながらそれを乗り越えて、ぜひ素敵な演奏家に育っていっていただけたらと思います。これからも頑張ってください。

パスカル・ドゥヴァイヨン(ピアニスト、ベルリン芸術大学教授、英国王立音楽院客員教授)

若い方々にとってコンクールは、自分が今どのくらいの位置にいるかを把握することができるという意味で効果的なものです。しかし、コンクールは他の人と戦うものではなく、自分自身と戦うためのものです。明日は今日より良い自分になれるように、と思ってください。
音楽を学ぶには非常にたくさんの時間が必要です。例えばハイドンとベートーヴェンでは生きた時代がちがいますし、もちろんドビュッシーやラヴェルも、みんな違う時代の、違う人間です。それぞれのバックグラウンドを学ぶ、つまり教養と呼ばれる部分が音楽をする上で必ず必要になってきます。音楽をもっとよく知ること、そして自分自身の音楽をもっと育てるということも含め、たくさん勉強して欲しいと思います。ちょっと難しいかもしれませんが、モーリス・ラヴェルの言葉によると、完璧というものは、地平線や水平線と同じで、近づけば近づくほど遠ざかっていくものなのです。頑張ってください。

松居 慶子(ピアニスト、作曲家)

課題曲、課題編曲、自選曲という3つの課題の中で、出場者のみなさんはそれぞれに自分のカラーを出されていました。みなさんがそれぞれたくさんの可能性を持っていることを感じ、いろいろな音色を出されていたことに感銘を受けました。
私の体験からですが、音楽は国や言葉の違い、宗教の違いを乗り越えて、みんなをつないでくれます。
世界にはすばらしい音楽がたくさんあり、すばらしい演奏家もたくさんいます。その中で、ご自分が演奏される意味、ご自分が表現される意味、自分ならではという部分を大事にして、これからますますすばらしい音楽家になって、世界中を平和にしてください。

山田 武彦(ピアニスト、作編曲家、洗足学園音楽大学教授)

このコンクールは特色のあるコンクールです。きちんと準備をして楽譜の通りにしっかりと表現する曲目と、それだけではなく、自分の想像力を駆使して楽譜に書かれていないことまで、時にはその場で即興的に付け加えて演奏することもできるような曲目、この2つが含まれるプログラムでした。みなさん充実した演奏でしたし、大変楽しく聴かせていただきました。
この機会を通じて、出場されたみなさんが、お互いの演奏を聴きあって「そこはどんなふうに弾いているの?」といった意見交換ができるような場になっていくといいなと感じました。これからもどうぞ楽しんで、頑張ってください。

ラルフ・ナットケンパー(ピアニスト、ハンブルク音楽大学教授)

本日演奏されたみなさんに、まずありがとうと伝えたいです。またご指導された先生方にも御礼とおめでとうという言葉を申し上げたいと思います。全員が受賞者のように感じられる、すばらしい演奏、すばらしい音楽を聴かせていただきました。コンクールは戦うものではありません。参加することによって、もっと音楽を愛し、お互いが競争するのではなく一緒に音楽を楽しむ、そういったコンクールであって欲しいと思います。みなさんがもっと努力し勉強して、今よりもっと音楽を好きになれるように願っています。

  • 五十音順、敬称略

左から、青柳晋、今峰由香、上原彩子、パスカル・ドゥヴァイヨン、松居慶子、山田武彦、ラルフ・ナットケンパー