活動リポート:藤原秀章さん(チェロ)

2020年度の支援対象者で、現在、ベルリン芸術大学マスター過程に在学中の藤原秀章さんにお話を伺いました。(2021.3.18)

新しいレパートリーに取り組みたい

ベルリン芸術大学のマスターには、オーケストラが必修のオーケストラマスターと、オーケストラの無いソロマスターの2コースがありますが、現在はオーケストラマスターで勉強しています。オーケストラのプロジェクトは、コロナ禍で1年以上叶っていませんが、一昨年は、学校のオーケストラでオランダやロンドンへのツアーもありました。専攻のレッスンは、石坂団十郎先生のクラスで、ソロやピアノとのデュオを勉強しています。コンクールや試験があると、なかなか新しいレパートリーを開拓することが難しいのですが、なるべく積極的に取り組むよう心がけています。

左の建物がベルリン芸術大学。晴れる日が少ないので太陽が出るとつい写真を撮ってしまいます

カルテット録音の様子。今期は学期末のコンサートが中止となり、各グループで収録した動画を提出して単位をもらいました

音楽一家の環境でチェロを始める

ヴィオラ奏者の父と、音楽の教員の母、ヴァイオリンを学ぶ姉という環境もあり、生まれた時から家にはグランドピアノからヴィオラ・ダ・モーレなどの古楽器まで、時にはチェンバロやハープなどもある環境で、西洋音楽を非常に身近に感じながら育ちました。チェロとの出会いは6歳の時、母が1/4サイズのチェロを突然買ってきたのがきっかけでした。他の家族がそれぞれ専門とする楽器を考えると、もう私に与える楽器として相応しいのはチェロ一択だったと思います。母としては、チェロを弾けたら家族で合奏もできますし、品性を身につけられるかも…程度の安易な発想だったのかもしれません。いずれにせよ、母の家系は田舎(私の地元でもあります)で、代々皆教員というような環境だったこともあり、母は特に男の子に、芸術のような厳しい世界に挑戦させるつもりは全くありませんでした。そもそも音楽の素質は無いと思っていたそうなのでそれ以前かもしれません。結局その後ほとんどチェロを弾くことは無かったのですが、ひょんなことから小学校4年生の時に東京のジュニアオーケストラに通うことになり、地元の山梨県南アルプス市から、隔週で姉と通い始めることになりました。そこで講師だった桑田歩先生に出会い、レッスンを受けるうちに真剣に取り組むようになり、気がつけば音楽高校に進学することになって、今に至ります。

学校のサロンを借りてレコーディング

楽譜屋さん。殆どが日本で買うより安く手に入ります

異なる3人の素晴らしい先生方との出会い

印象に残っている経験というと、やはりこれまで師事してきた先生方のレッスンばかりが頭に浮かびます。特に、これまで長くお世話になってきた、桑田歩先生、山崎伸子先生、中木健二先生の、全ての言葉が私の血となり肉となっていることを、時間が経てば経つほど本当に強く感じています。
桑田先生は、既に11歳とスロースターターだった私に、基礎をじっくりじっくり、一歩ずつ確実に教えてくださいました。はじめのうちは、レッスンのほとんどが音階とエチュードで、いかに基礎が大切か、最初から感覚に埋め込んでいただけたのは幸運でした。そして、小学生の私に対して、一つ一つの作品をじっくりレッスンしてくださり、ハイドンの協奏曲は、1年間それだけを練習しました。ただ弾けるだけでは音楽の意味がないことを、真剣に向き合って教えてくださったのだと思います。
山崎先生のレッスンに初めて伺った時は、何もかもが新しく、ショックを受けたことを覚えています。何を考えて弾いているのか、どういう音を出すつもりなのか、イメージがあるのか無いのか、ひたすら質問されては答えられず、それでも答えるまで沈黙でした。最初の頃はレッスンのほとんどが沈黙だったのではと思うほどです。それまで手取り足取り大切な事を叩き込んでいただいていたところから、今度は自分で考えて演奏しなければならない、演奏とは自分の意志や、感じるイメージで作り上げるのだということを叩き込まれました。最初は先生の言っていることが分からないことも多かったのですが、今となっては、先生があんなに言葉を巧みに操って語りかけてくださっていたのだと、思い出しては驚くほど、先生の言葉が身に染みて分かるようになりました。
中木先生は、それまでの演奏家を目指す学生としてのレッスンから一変、演奏家としてどうあるべきかという姿勢を本当に根気強く教えてくださいました。ただ弾ける、当たり前を表現するのでは、演奏として充分でないことに気付かせてくださいました。しかしこれは気付いたからといって簡単なことではなく、確信を持って演奏するためには、自分なりの明確な解釈や、根拠となる何かが必要になってきます。探したり、考えたりしても終わりがなく果てしないことなのですが、それこそが演奏家の道のりなのだという感覚を身につけていただきました。3人の異なるタイプの先生方にご指導いただいたことで、私の音楽に対する思考や感覚が広がり、今こうして石坂団十郎先生とまた新しい視点から勉強するときにも、より発展して勉強できる力となっているように思います。石坂先生のレッスンは今までになく緻密で、本当に伝わるか伝わらないかの繊細なニュアンスの積み重ねですが、全てが成功した時には、信じられないくらい説得力のある音楽となり、音楽がいかに奥深く、神経を行き渡らせることが演奏にどんなに大切かを実感させられます。

近所の様子、今年のベルリンは雪が降りました

湖が凍っていました

隠れた名曲の魅力を伝えたい

今後も引き続きヨーロッパでたくさん一流の芸術に触れ、勉強して自分の中に蓄積して行きたいと思います。日本では、比較的いつも決まったレパートリーが演奏されることが多いですが、あまり有名ではない中にも素敵な作品がたくさんあるので、そういう作品をプログラムに組み込み、魅力を伝えられるような演奏をすることが目標です。

ドイツではほとんどが自炊です。鶏もも肉は骨付きしか売っていないので、唐揚は時間のあるときに肉を剥がして作ります

冷凍のパイ生地がとても安く買えます

リーズナブルで美味しいお寿司屋さんがあり、コロナ禍で唯一安心してテイクアウトできます。この日は鮭メニュー、ヨーロッパのサーモンはとても美味しいです

藤原秀章(Hideaki Fujiwara)さんプロフィール

1994年 山梨県 南アルプス市出身
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学、大学院修士課程を卒業
学内にて同声会音楽賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞
現在ベルリン芸術大学マスター課程に在籍

  • 2015年 第13回東京音楽コンクール弦楽部門第2位
  • 2016年 第12回ビバホールチェロコンクール第1位、聴衆賞
  • 2017年 第86回日本音楽コンクールチェロ部門第3位
  • 2019年 第54回マルクノイキルヘン国際器楽コンクールチェロ部門 ディプロマ
  • 2020年 第89回日本音楽コンクールチェロ部門第2位、E.ナカミチ賞

ソリストとして、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、芸大フィルハーモニア管弦楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、ヴュルテンベルク・フィルハーモニック管弦楽団と共演
これまでにバロックチェロを鈴木秀美氏に、チェロを桑田歩、山崎伸子、中木健二、石坂団十郎の各氏に師事
CHANEL Pygmalion Daysアーティスト