活動リポート:柴田花音さん(チェロ)

2020年度の支援対象者で、現在、トロント王立音楽院 グレン・グールド・スクールに在学中の柴田花音さんにお話しを伺いました。(2021.5.27)

ジャクリーヌ・デュ・プレに憧れて

ピアノを弾いていた母の影響でピアノを遊びながら触っていましたが、5歳のころ姉に倣いヴァイオリンを習い始めました。それから1年ほどして姉のように上手に弾けないことが悔しく感じ始めていたころ、偶然チェロという楽器を知りました。すぐにチェロの音色に惹かれ、そしてさらに女性でありながらとても情熱的な演奏をしているジャクリーヌ・デュ・プレの演奏姿に憧れを抱き、母にチェロを弾きたいと懇願したのがきっかけです。本当のことを言うと楽器の大きさだけでも姉に負けたくなくて、ヴァイオリンよりサイズが大きいチェロを弾くことで、どこか姉に勝ったような気分になりたかったというのもきっとあるかと思います。

学校の校舎

初めてのカナダでのThanksgiving Day

ハンス・ジェンセン先生

私が現在師事しているハンス・ジェンセン先生はとてもエネルギッシュでユーモアに富んだ先生です。先生のレッスンは特に左手のテクニックに特化したレッスンで、先生はCello Mindという左手のテクニックのための本を出版する等、左手のテクニックに情熱を注がれています。
レッスンの中では音程が完璧に合うまでさまざまな方法でのレッスンが続き、それが体に染み込むまで繰り返されます。これには、かなりの集中力を要するため、レッスン中に疲れて集中力が切れてしまう事も度々あります。そんな時先生は、いつも面白くおかしなことを言って、私たちに一呼吸できるようリラックスさせ、頭の切り替えができるようにしてくださいます。数年前になりますが、激しいレッスンに私が堪えきれずに涙したことがありました。先生は少しの間何も言わず待っていてくださり「さっさと楽器を置いてアイスを食べに行こう!」と散歩しながら一緒にアイスを食べて私がゲラゲラ笑う話をたくさんしてくださったのは忘れられない経験です。
また、生徒が先生のサポートをもっと必要としている時には、お忙しい中にもかなり頻繁にレッスンをしてくださったり、コロナ禍でオンラインレッスンになった時は、先生が日本にいる私の時差に合わせてくださり、私の体調や集中力が普段通りであるようにと、現地の朝の5時からレッスンをしていただくなど、生徒を100%の力でサポートしてくださる先生です。ハンス先生のレッスンを受けるたびに、先生からご指導いただいている全てのこと、技術面だけでなく「人」としての思いやりやサポートを当たり前にできる大人になりたいと心に刻んでいます。

ハンス・ジェンセン先生の公開レッスンの様子

レパートリーの枠を広げたい

在学しているトロント王立音楽院グレン・グールド・スクールは、在学中にカナダ人作曲家の曲を必ず学び披露しなくてはならない伝統があります。彼等の曲は現代作品が多く、今まで現代作品に取り組んだことの無い私にとっては新しい領域へ踏み出す緊張感と期待感で胸がいっぱいです。また昨年のBLM(Black Lives Matter)のムーブメントの影響で、今年からは黒人作曲家の作品にも取り組むことになりました。私のレパートリーは近代物で止まっていたので、これを機に今年はその枠を広げられることをとても楽しみにしています。そして同時に、私も日本人として日本人作曲家による曲の勉強を始めました。カナダで日本人作曲家の素晴らしい作品を少しでも広げることができるよう演奏の機会を持ちたいと思っています。

コロナ後初めての音楽祭「霧島国際音楽祭」にて

ショスタコーヴィチ『チェロ協奏曲』リハーサル

コロナの影響で本番後は指揮の先生とエルボーパンプでの挨拶

柴田花音(Canon Shibata)さんプロフィール

  • 2000年 福岡県久留米市出身
  • 2016年 第70回全日本学生音楽コンクールチェロ部門高校生の部全国大会第1位、及び横浜市民賞、日本放送協会賞、かんぽ生命奨励賞受賞、名古屋市教育委員会より表彰を受ける
  • 2018年 第13回ビバホールチェロコンクール井上賞受賞
  • 2019年 第40回霧島国際音楽祭賞受賞
  • 2020年 第89回日本音楽コンクールチェロ部門入選
  • 2021年 ポーランド国際音楽コンクールOPUS 21第1位受賞

NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」、テレビ朝日「題名のない音楽会」、NHK-BS「クラシック倶楽部」等に出演、また東京フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団等と共演
これまでに林良一、野村友紀、山崎伸子、中木健二、辻本玲の各氏に師事
東京芸術大学音楽学部器楽科を経て、現在トロント王立音楽院グレン・グールド・スクール特待生としてハンス・ヨーゲン・ジェンセン、アンドレス・ディアスの両氏に師事、室内楽をD.ゲーバー、P.ズッカーマン等の指導を受ける