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活動リポート:宇野由樹子さん(ヴァイオリン)
2021年度の支援対象者で、現在、バーゼル音楽院に在籍されている宇野由樹子さんにお話しを伺いました。
現在勉強していること
バーゼル音楽院でソリスト課程の修士課程にて、ハーゲン弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者ライナー・シュミット先生の下で勉強しています。
ソリスト課程では、卒業試験でオーケストラとの協奏曲を演奏する試験があるため、基本的には専らソロの勉強を中心にします。実技のレッスンに加えて、大学ではレオニダス・カヴァコス氏をはじめとした世界有数の素晴らしい音楽家を招聘して定期的にマスタークラスが行われるので、一流の音楽家から直接教えを乞うことのできる恵まれた環境で、刺激的に多くのことを学ばせていただいています。
普段はコンサートやコンクールの準備のための練習に加え、カルテットやデュオなどの室内楽のリハーサルをして過ごしています。特に一年目から学んでいるカルテットでは、チェリスト以外は同じ先生の門下生3人で組んでいるため、ヴィオラを含め全てのパートを曲ごとに交代して演奏します。
弾くパートが変わるごとに音の聴き方も役割としての弾き方も変わるので、常に模索しながら取り組んでいます。
そして、大学院2年目からはフェルデンクライスやアレキサンダーテクニック(いずれも演奏につながる体の動きのフィジカルなテクニック)などのレッスンや講習を定期的に受け始めるようになり、日常の生活や演奏時の身体の使い方にも気を配るようになりました。夏にコロナ規制の関係で、アメリカに入国する際、二週間セルビアに滞在しなければならなかった時期があり、そのタイミングを利用してフェルデンクライスの先生のところで集中的に指導をしていただきました。意識上も改善した点がたくさんありましたし、直接演奏にも大変役立ったので、後日その先生にバーゼルに来ていただき、学校内で他の希望するクラスメイトがレッスンを受けられるよう、小規模の講習会を企画したりもしました。
ヴァイオリンを始めたきっかけ
幼少の頃から姉がピアノを習っており、その練習やレッスンに興味津々な様子から音楽教室の先生にヴァイオリンを習うことを勧められました。もともとピアノかヴァイオリンのどちらかを習いたいと母にせがんでいたみたいですが、二人ともピアノにすると練習がしづらくなるので自然とヴァイオリンを選択することになりました。
小さい頃から練習よりも外で遊ぶことの方が好きで、虫探しのためにレッスン中に外に抜け出して先生を困らせるようなやんちゃ者だったみたいです。手ほどきの段階から大学に入るまで長く教わり続けた進藤眞弓先生には、厳しさの中にも寛容さを持って忍耐強く温かく見守っていただき、先生亡き今も感謝に堪えません。
印象に残った経験
2015年にオーストリアのザルツブルク・モーツァルテウム大学で留学を始めてから、世界的に著名な先生の下で、すでに活躍の場を広げる優秀な生徒たちが集まるクラスという刺激的な環境に初めて身を置き、当時はすべてが新鮮で、とにかく周りについていけるように必死でした。そこでは、クラスの半分がお互い切磋琢磨して同じ国際コンクールを目指すような競争の激しい世界で、次第に自分も毎月のようにコンクールを受けるような生活スタイルになりました。毎日レッスンを受け、クラスメイトのレッスンを聴き合い、たくさんの新しく難しい曲に挑戦し練習するといった日々で、月日はあっという間に目まぐるしく過ぎていきました。
それを長く続けていくうちに、まだ歳が若かったこともあり、今思えば無意識のうちに音楽をしていて結果が出るか出ないか、極端に言えば、正解か不正解かといった価値観で向き合ってしまっていたように思います。
留学後3年が経ち、今の恩師であるライナー・シュミット先生に出会ったわけですが、初めのレッスンでまずは開放弦の練習とエチュードだけ練習するように言われ、コンクールも最低一年間の禁止令を出されました。そしてそこからは、楽譜の深い分析と、基礎面の改善を図り、他人と自分を比べることを控え、徹底して自分の弱点に向き合いました。
今まで信じて積み上げてきたと思っていたものをすべて放棄した気分でしたが、いろいろなしがらみや固定概念を手放し、半ば諦めの境地になって、初めて練習していた音楽が心に染み渡っていく感覚を覚えたのを記憶しています。そして徐々に、心に正直に向き合い、表現方法もいろいろと実験的に試す手法を取り入れるようになり、音楽に向かう姿勢も柔軟な考え方にシフトしていきました。私にとってこの体験は人生の転機となり、頭を真っさらにした状態でおのずと自分のやりたい音楽という方向性が見えてきた瞬間でした。
音楽家や芸術家は一生勉強の身と言いますが、私もこの先まだ長い道のりで、また音楽性や表現したいことが変わるかもしれません。常に自らの心に正直に対峙し、そういった変化や機微も楽しみながらこの先も勉強し、前進し続けたいと思います。
今後の目標
2021年の夏、アメリカで開催されたイエローバーン音楽祭への参加を機に、現代音楽の奥深さや、同じ時代を生きる作曲家の作品を勉強し演奏することの意味深さを感じさせられました。その経験が特に印象的で、それ以来現代作品にもより興味を持つようになり、取り組む曲の中で現代曲も常にレパートリーとして組み入れ始めたことで、普段慣れ親しんでいる古典派やロマン派をはじめとした作品もより新鮮な視点で捉えられるようになりました。
今後は、この時代を生きる音楽家として、多くの作曲家に出会い、積極的に現代作品も開拓していきたいと思います。そして、演奏を通して現代の作曲家や作品のことに多くの人が興味を持ってもらえるための一助となれたら嬉しいです。
また、留学をさせていただけたことから、音楽面でのことはもちろんですが、他にも欧米での価値観や教育の相違など、肌で感じることが多くありました。留学を通して学ぶことのできた経験や知識を、次世代の人たちの活躍のために還元していきたいと思います。
宇野由樹子(Yukiko Uno)さんプロフィール
- 1995年生まれ、岐阜県岐阜市出身、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業
- 2014年 東京藝術大学に宗次徳二特待奨学金奨学生として首席で入学
- 2015年 宗次徳二海外留学支援奨学金第1期生として渡欧、オーストリアのザルツブルク・モーツァルテウム芸術大学を最高点を得て卒業
- 2013年 チェコ音楽コンクール第1位
- 2016年 中国光亜成都国際ヴァイオリンコンクール第1位
- 2016年、2017年 アンドレア・ポスタッキーニ国際コンクール第1位
- 2019年 エリザベート王妃国際コンクール入賞
- 2019年 オレグクリサ国際コンクール特別賞等、国内外の数々のコンクールにおいて優勝、入賞歴多数
ザルツブルク・モーツァルテウム芸術大学にて、卓越した才能と芸術への献身を称えるポール・ロチェック賞を受賞する。
これまでにソリストとして、大植英次、和田一樹、ジャン・ジャック・カントロフ、ヒュー・ウルフ、ヨハネス・カリツケ各氏の指揮の下、新日本フィルハーモニー交響楽団、名古屋室内管弦楽団、ベルギー国立管弦楽団、ワロニー王立室内管弦楽団、ザルツブルク・モーツァルテウム大学交響楽団、リヴィヴ交響楽団、聖ゲレートアカデミー管弦楽団、マルキジャーナ管弦楽団と共演。
イエローバーン音楽祭(アメリカ)、パレルモ・クラシカ音楽祭(イタリア)、聖ゲレート国際音楽祭(ハンガリー)、Classy Sundays室内音楽祭(ベルギー)にて、ソリスト、また室内楽奏者として出演する。
メディアにはNHK-FM「リサイタル・パッシオ」に出演。フレッシュ名曲コンサート、デジタル・サラマンカホール「100人de名演」シリーズへの出演を始め、国内外において幅広くコンサートをする傍ら、2021年よりジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のメンバーとしても活動している。
マキシム・ヴェンゲーロフ、レオニダス・カヴァコス、ヴァディム・レーピン、ヴィクトル・トレチャコフ、ミハエラ・マルティン、五嶋みどり、サバディ・ヴィルモシュ各氏らによるマスタークラスでの指導のもと薫陶を受ける。
これまでに進藤眞弓、玉井菜採、澤和樹、進藤義武、ヘルヴィック・ツァック、ピエール・アモイヤル各氏に師事、現在はスイス・バーゼル音楽院ソリスト特別修士課程に在籍し、ライナー・シュミット氏に師事。
<今後出演予定の演奏会>
- 2022年2月6日(日) 宇野由樹子 ヴァイオリンリサイタル @不二羽島文化センター スカイホール(岐阜県)
- 2022年2月9日(水) 反田恭平プロデュースJNO Presents リサイタルシリーズ〜宇野由樹子の世界〜 @DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール