主観的な幸福との関係が深いとされているのが、多様な人がともに協力して創造する際、自分の力を発揮するのに必要な「挑戦意欲」「利他精神」「想像力」「信頼関係構築力」などで構成される「多様性適応力」です。
第3回となる今回は、この「多様性適応力」が、ヤマハ音楽教室の経験者は他の音楽の習い事を経験した人に比べて高い、という調査結果が出たことについてお話を伺いました。
※調査結果の詳細は、「ヤマハ音楽振興会オフィシャルサイト」に掲載しています。
グループの仲間の存在が 挑戦意欲を高める
細澤講師:
指は器用に動くけれど、表現力がもう一息惜しいという生徒がいて、ある時グループレッスンで短いフレーズでしたが表現力豊かに弾くことができて、お友だちから「今のすごく良かったね!」と褒められたことがありました。それからしばらく後の発表会で、今まで苦手としていた表現豊かな曲に挑戦すると言い出して。もともと自分から何かをやりたいという子ではなかったのですが、お友だちに認めてもらったことが挑戦する意欲につながったのかなって。
安立講師:
私もグループのお友だちの存在はとても大きいと思います。置かれた環境の中で回りを意識しながら、少しずつ音楽に対する意識を高めていく子どもも少なくないと思います。例えば、自分はステージに出るのが好きではなくても、お友だちが頑張って出ている姿を見て、自分もやってみようという気持ちが生まれることもあります。挑戦してみたら頑張れた自分に自信が持てた。そしてその自信がまた次につながっていく。お友だちは、良き仲間、時によきライバルとして、とても大きな存在だと感じます。
ヤマハ音楽研究所 所長 田山:
挑戦をしたという経験が積み重なることで、次なる意欲につながるのかもしれませんね。
佐々木講師:
私もそう思います。片手で弾いたものを両手で挑戦してみたり、お友だちのアレンジを聴いて、自分も違ったアレンジに挑戦したり。小さな挑戦の積み重ねによって、大きな挑戦も怖くないと思ってもらえてるのかなと思います。
全体を俯瞰してとらえることができるのは グループレッスンならでは
細澤:
アンサンブルの本番が近づいたレッスンでは、曲全体を俯瞰して見て「私たちの演奏は今はココ。ココからどういうふうしていけば良い?どういうふうに表現していく?」みたいなことをみんなで考えるという機会があります。そういう経験を繰り返していくうちに体が覚えていく部分もあるのかな。
佐々木:
私もアンサンブルのとき、演奏全体が仕上がってきた段階で、弾くのを一人止めてもらって。その子にグループ全体を見てもらいながら、気がついたことを発言してもらうことはありますね。
ヤマハ音楽振興会 システム教育部 部長 水戸瀬:
お友だちと何かを作り上げていく過程で、自分が一つ変化すれば全体が良くなることがあるかもしれません。そういう一歩引いて考える力を養えるのはグループレッスンやアンサンブルの長所かな、他の音楽教室とは少し違うのかなと思いました。
安立:
私たち講師は、短いレッスン時間の中で、グループ全員が何かを持ち帰れるように工夫しながら進めています。一方で、生徒たちも何かを掴み取ろうと努力してくれていて、教室全体にアンテナを張り巡らせて、自分が言われたことではなくても、自分の気づきとして持ち帰ってくれていると感じます。グループレッスンでは、周りから学び取っていく力も身に付くのかなと思いました。
音楽から何かを感じとる… それがコミュニケーション力を高めることにつながる
佐々木:
グループレッスンでは、お友だち同士で演奏について話さなくてはいけない場面があります。アンサンブルで同じパートのお友だちと話したり、演奏を合わせたりすることが何度もありますから。音楽ですので、音でコミュニケーションすることも多いですが、同じように直接お友だちとコミュニケーションを取る機会も多いです。
細澤:
それはありますね。特にアンサンブルや歌などはそうですけど、みんなで一つの音楽を作り上げようということが多いですから。
安立:
気持ちを伝えたり、何かを発信したりするとき、他の人と接して話を聞くことで、何かたくさんのことを感じられる、そしていろんな気持ちが生まれるということが、まず大事なのかなと思います。
田山:
というと?
安立:
音楽を、最初はただ何となく聴いていたとしても、レッスンの中で、楽しい、悲しいといった表情を持ったさまざまな曲に触れていくうちに、音楽の雰囲気をつかめるようになる生徒がたくさんいます。音楽から何かを感じ取る力が付いているのだと思います。感じ取ったら今度はそれに対する自分の気持ちが生まれる。それは、同じように人や社会の中でコミュニケーションを取るために必要なこと。例えば周囲から何かを感じとる、空気を読む、自分の中でいろいろな感情を生みだす、といったことにつながっていくのかなと。
田山:
なるほど。
信頼関係を構築していく機会が レッスンの中にたくさんある
佐々木:
ヤマハのレッスンはお友だちを信頼していないとできないことが多いです。アンサンブルも自分が関与してないパートを他のお友だちが弾いているのですから。「○○さんなら、こういうふうに弾いてくれる」など、みんな信頼しながら演奏していると思います。
安立:
確かに、呼吸やアイコンタクトでタイミングを合わせて、一緒に演奏に入ることがあります。そこには、絶対タイミングを合わせてくれるという、お互いを信じる気持ちがあると思います。その経験の積み重ねで、信頼関係が生まれていくのかなと思いますね。
水戸瀬:
そういう信頼関係を構築していく機会は、普段のレッスンの中に数多くあるということでしょうか。
細澤:
そうですね。一人一人が責任感を持ってパートを担当しています。自分がやらないと全体がダメになるという環境が責任感を生んでいるのかもしれません。そして、お互いが責任を持って臨んでいると信じ合っているからこそ、良い演奏ができるのではないかと。
水戸瀬:
そこを前提として、信頼が生まれているのですね。
安立:
そうですね。そして、レッスンや本番を積み重ねるたびに、どんどんメンバー同士の信頼が大きくなっていくのを感じています。
ヤマハ音楽研究所 所長 田山
教室にはさまざまな子どもが通い、いろいろな個性が集まっている中で、共同で一つの音楽を作っていく。こうした経験によって、まずは周囲のお友だちを思いやることとか、目標を決めて計画を立てて行動することなど、多くの心の成長につながっているのだとすれば、とても良いことではないかと感じました。
ヤマハ音楽振興会 システム教育部 部長 水戸瀬
一つのことをみんなで力を合わせてやり遂げるアンサンブルで得た成功体験は、子どもたちにとって何にも代えがたいものがあると、みなさんのお話を聞いて思いました。生徒の人格形成において、ヤマハのレッスンが資する部分が少なくないと感じることができ、大変ありがたいことだと思いました。ありがとうございました。