活動リポート:垣内 絵実梨(ヴァイオリン)
2025年度、2026年度の支援対象者で、現在、ベルリン芸術大学に在籍されている垣内 絵実梨さんにお話しを伺いました。
現在勉強していること
ドイツのベルリン芸術大学(Universität der Künste Berlin)ヴァイオリン科3年に在籍しています。
現在は特に室内楽に力を入れており、2026年1月には『レオンコロ弦楽四重奏団』のセカンドヴァイ
オリンとして加入し、本格的に室内楽の演奏活動を始めました。弦楽四重奏では、一人ひとりが異なる
考えや音楽性を持つ中で、四人で試行錯誤を重ねながら一つの音楽を創り上げていきます。その過程は
決して簡単ではありませんが、互いに意見を交わし、音を聴き合いながら作品を深めていくことに大き
な魅力を感じています。アンサンブルを通して、演奏技術だけでなく、音楽に対する視野や柔軟な発想
も広がっていると実感しています。
また、今の先生のもとで学び始めてから最も大きく変化したのは「音の出し方」です。ヴァイオリンを
鳴らすための基本的な部分を一から見直したことで自分の音色や表現の幅が大きく広がりました。
さらに、自分の技術を向上させるため、あえて今の自分には難易度の高い作品を選び、日々挑戦を続け
ています。試行錯誤を重ねながら練習を積み重ねることで、一つひとつ課題を乗り越えています。
音楽以外では、今後ドイツでの活動の幅をさらに広げられるよう、ドイツ語の勉強にも力を入れていきます。
レオンコロ弦楽四重奏団:ドイツのブレズホールでの演奏会 ©jakobtillmann
音楽を始めたきっかけ
ヴァイオリンを始めたのは4歳の頃です。兄がヴァイオリンを習っており、その姿を見て自然と興味を持ったことがきっかけでした。
幼い頃から「誰よりも上手になりたい」という気持ちが強く、演奏会に足を運んでも「素晴らしい演奏
だった」と感動するより、「いつかこの人より上手くなりたい」と競争心を燃やしていました。
今振り返ると、少しひねくれた子どもだったのかもしれません。
小学生の頃、サラサーテの《ツィゴイネルワイゼン》を練習していた際、先生から「最初の難しいパッ
セージは1万5,000回練習すれば、いつでも弾けるようになるよ」と言われました。その言葉を本気で
信じ、練習するたびに楽譜へ正の字を書き込み、最終的には1万5,000回以上練習しました。今思えば
少し極端だったかもしれませんが、それほど「上手くなりたい」という気持ちだけで夢中になっていた
ことを今でもよく覚えています。
特別なきっかけがあって音楽の道を選んだというよりも、家庭にはいつも音楽があり、その環境の中でごく自然に演奏家を目指すようになりました。
印象に残っていること
これまでで特に印象に残っている演奏会は、兄と結成している「EMIRI & KYOTA Violin DUO」として
出演した、ベルリンの「Live Music Now」でのコンサートです。この団体は、老人ホームや精神科病院、
幼稚園など普段コンサートへ足を運ぶことが難しい方々へ音楽を届ける活動を行っています。
演奏前には、「私たちが毎日続けている練習は、本当に社会の役に立っているのだろうか」と考えること
もありました。しかし、その日の演奏では、聴いてくださった皆さんが心から喜び、涙を流しながら耳を
傾けてくださる姿を目の当たりにし、私自身も温かい気持ちになりました。
普段の練習は地道で時には事務的な積み重ねの連続ですが、聴いてくださる方がいて初めて音楽は感情を
共有できる特別なものになるのだと実感した、忘れられない演奏会です。
コンクールでは、2024年の日本音楽コンクールの本選が最も印象に残っています。15歳の頃から
憧れていた協奏曲を初めてプロオーケストラと共演し、東京オペラシティ コンサートホールという大きな
舞台で演奏することができました。演奏中はコンクールであることを忘れ、ただ音楽に没頭できたことが
今でも心に残っています。
ヴァイオリン4本で結成したクアドフォニックスのデビュー公演の様子
クアドフォニックスのメンバーと、来日ツアー中沖縄で遊んだ様子
留学を通して学んだこと
ベルリンに留学して最も大きく変わったのは、「自分の限界は他人が決めるものではない」という考え方です。
現在、室内楽を指導してくださっているヴィネタ・サレイカ先生は、弦楽四重奏で国際的な成功を収めた後、女性として初めてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任され、現在はロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務めていらっしゃいます。
誰もが「これ以上はない」と思うような経歴を築かれているにもかかわらず、先生は今なお現状に満足することなく、常に努力を続け、新しい挑戦を重ねています。その姿を間近で見て、「限界は他人が決めるものではなく、自分自身が決めるものでもない。挑戦し続けることで、その可能性は広がっていくのだ」と考えるようになりました。この姿勢は、演奏だけでなく、自分自身の生き方にも大きな影響を与えてくださっています。
ヴィネタ・サレイカ氏のレッスン
また、これまで多くの演奏家や芸術家から刺激を受けてきましたが、中でも最も大きな影響を受けたのは漆原啓子先生です。先生のレッスンでは、「どう見せるか」という表面的なことではなく、自分が作品をどこまで深く理解し、それをどう表現するかを徹底的に考えさせられました。また、ヴァイオリン演奏に必要な身体の使い方についても論理的に教えてくださり、演奏への向き合い方そのものが大きく変わりました。
今後の目標
私が目指すのは、一つひとつの作品に対して明確なイメージと自分なりの考えを持ち、それを、音楽を通して聴いてくださる方へ伝えられる演奏家です。
すべての方に同じように受け止めていただける演奏は存在しないと思っています。しかし、「私はこの作品をこう感じ、こう表現したい」という自分の意志を音に込め、その演奏から何かを感じ取っていただけたなら、それ以上に嬉しいことはありません。
現在はコンクールへの挑戦は一区切りとし、レオンコロ弦楽四重奏団の一員として演奏活動に力を注いでいきたいと考えています。弦楽四重奏団としての大きな目標の一つは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全16曲に取り組むことです。ベートーヴェン・サイクルは、多くの弦楽四重奏団にとって生涯をかけて挑戦するレパートリーだと思います。決して終わりのある挑戦ではありませんが、一曲一曲と真摯に向き合いながら、四人で試行錯誤を重ね、音楽を深め続けていきたいと考えています。
これからも探究心を忘れることなく、音楽と真摯に向き合い、演奏を通して聴いてくださる方と感情を共有できる演奏家であり続けたいと思っています。
マスタークラスにて、室内楽のリハーサルの様子
マスタークラスでできた友達とハイキング
垣内 絵実梨(EMIRI KAKIUCHI)さんプロフィール
2006年岐阜市生まれ、4歳よりヴァイオリンを始める
11歳で英国メニューイン音楽院にイギリス政府奨学生として留学
現在、ベルリン芸術大学に在学中
【受賞歴】
2019年 第12回アルトゥール・グリュミオー国際ヴァイオリンコンクール第2位
2023年 第42回ロドルフォ・リピツァー国際ヴァイオリンコンクール(イタリア)にて最年少で第2位、および特別賞3賞を受賞
2024年 第93回日本音楽コンクールヴァイオリン部門第4位
また、宗次弦楽四重奏コンクール第1位および聴衆賞、アリス・サムター財団室内楽コンクール第1位を受賞するなど、ソロおよび室内楽の両分野で高い評価を受けている
ヴァイオリンをノラ・チャステイン、グンター・ピッヒラー(アルバン・ベルク弦楽四重奏団)の各氏に、室内楽をヴィネタ・サレイカ(元ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団第1コンサートマスター/アルテミス弦楽四重奏団)、グレゴール・ジーグル(アルテミス弦楽四重奏団)の各氏に師事、日本では漆原啓子氏に学ぶ
ウィグモア・ホール、メニューイン・ホール、ウィーン・コンツェルトハウス、ゲヴァントハウス、ピエール・ブーレーズ・ザール、コンセルトヘボウ、サントリーホールなど、欧州および日本の主要ホールで演奏、コロナ禍に「EMIRI & KYOTA Violin Duo」を結成、2024年にヴァイオリン四重奏団クアドフォニックス、2025年にヴァリオン弦楽四重奏団を結成、2026年よりレオンコロ弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者として活動し、Impresariat Simmenauer 音楽事務所の所属アーティスト
Yehudi Menuhin Live Music Now Berlin e.V.奨学生
使用楽器: Giovanni Battista Guadagnini(1755年製)―Merito String Instrument Trustより貸与されている
- 原田 斗生(クラシックギター)
- 島 圭祐(テューバ)
- 垣内 響太(ヴァイオリン)
- 小嶋 早恵(ピアノ)
- 松本 拓也(ファゴット)
- 児玉 隼人(トランペット)
- 古澤 香理(ヴァイオリン)
- 今井 理子(ピアノ)
- 竹本 百合子(ヴァイオリン)
- 山影 頼楓(ヴァイオリン)
- 大谷 恵理架(クラシックギター)
- 水野 魁政(ピアノ)
- 郡司 菜月(ヴァイオリン)
- 嘉屋 翔太(ピアノ)
- 水越 菜生(ヴァイオリン)
- 森本 隼太(ピアノ)
- 平井 菜々子(ハープ)
- 島方 瞭(ヴァイオリン)
- 佐藤 桂菜(チェロ)
- 片岡 友紀(クラリネット)
- 井上 陽南子(ピアノ)
- 宇野 由樹子(ヴァイオリン)
- 森田 啓佑(チェロ)
- 荒井 里桜(ヴァイオリン)
- 柴田 花音(チェロ)
- 藤原 秀章(チェロ)
- 新田 吏央(マリンバ)