アメリカを拠点として多彩に活躍するジャズピアニストの大林武司さん。2018年10月28日(日)には「ヤマハジャズフェスティバル」(静岡県浜松市)に自身のピアノトリオで出演、翌29日(月)には「ヤマハ銀座スタジオ」(東京都中央区)での同メンバーによるライブがおこなわれ、各地で熱演を繰り広げ絶賛を浴びました。
「ヤマハ音楽教室」OBでもある大林さんに、演奏活動やピアノへの思いなどをうかがいました。
- 銀座でのライブは満席で活気にあふれ、お客様もとても楽しんで聴いていらっしゃいましたね
せっかく日本に来るのだから浜松だけではなく東京でもライブをやりたいね、という話になり、ヤマハさんで日程を組んでいただいて実現しました。素晴らしい会場で楽しく集中して演奏できました。
- ベースの粟谷巧さん、ドラムスのマーク・ホイットフィールJr.さんとの息の合ったプレイは、強弱の巧みな変化が印象的でした
会話にもイントネーションや強弱があるように、自分の音楽も立体的に表現したいと思っています。シンガーの優れた表現力や、南米やアフリカで聴いた声の延長のように豊かなパーカッションのアンサンブルなど、いろいろな音楽に触れた体験を通してそう感じました。音をどこで出してどこで抜くか、速く・遅く、強く・弱くなど、そういったことを世界中の土着的な要素を含んだ音楽からもっといろいろ知りたいですね。
- ドラムのマークさんとはバークリー時代から一緒に演奏なさっていたそうですね
マークとはバークリーの学内のオーディションで出会って、それ以来の付き合いです。彼は当時から聴く力、アンサンブル力に優れていて、自分のコンセプトやサウンドを持っていました。音楽的に彼から学んだことは多いです。
- アンコールでソロ演奏された『見上げてごらん夜の星を』は、リハーモナイズされた豊かな響きに魅了されました
毎日している練習のひとつとして、知っている曲を移調したり感じを変えて弾くということをやっていて、コード進行を工夫したり、メロディーを変えたりといろんな風に弾いています。しっかり定石を踏むところとあえて少しはずすところなど、同じ曲でも毎日ちょっとずつ違う形になります。『見上げてごらん…』もこれまでそうして弾いてきた中の1曲です。
- ピアノとの出会い、思い出について教えてください
母に連れられてヤマハの「3歳児ランド」に入会して、4歳から「幼児科」に進みました。5歳の時、「ドミソ」の和音をピアノで鳴らしてきれいな響きだなと思い、手をそのまま「レファラ」、「ミソシ」と動かして和音を鳴らしていったらとても面白くて、その感覚が作曲への興味に繋がって行ったのを覚えています。小1からはエレクトーンも習い、「ジュニア専門コース」、「上級科」(当時)と進み、レッスンには高校3年まで通っていました。
- ジャズとの出会いはいつでしたか
高校生の時、音楽教室の仲間がエレクトーンでジャズをバリバリ弾いているのを聴いてかっこいいなと思い、僕もビッグバンドの曲をエレクトーンで弾いてみたのが始まりです。本格的に学び始めたのはその数年後で、山下洋輔さんのジャズピアノの講座を受けたのですがそれがとても面白かったんです。もっと勉強したいなと思い、バークリー音楽大学のジャズキャンプに参加して、そこで奨学金試験を受けて合格してバークリーへの留学を決めました。
- アメリカを拠点に活動を続けていらっしゃる中で感じることは?
習慣や言葉の違いから発見することが今でもたくさんあるんです。言語とか文化の違いは音楽にも反映されますし、渡米して価値観がそれまでとまったく変わりましたね。世界中いろんな場所で演奏してみて、自然界の音、言葉では表現しづらい色など、普遍的な価値のあるもの、人間らしさみたいなものを自分の演奏スタイルや音色に反映したいなと思うようになりました。
- 今後の活動について教えてください
来年はホセ・ジェイムズの世界ツアーに帯同する予定です。これまではいろんなバンドでのサポートメンバーとしての活動が多かったのですが、自分のトリオでの活動も少しずつ増やしていきたいと考えています。次のアルバムをリリースしたらまた日本にも来る予定です。
一つ一つの質問に、じっくり考えてから答えてくださった大林さん。考えていらっしゃる間の凛々しさ、楽しい思い出を朗らかに語る時の笑顔、その表情の豊かさがとても印象的でした。これからのご活躍にぜひご注目ください。
- プロフィール -
ニューヨークを拠点に国際的に活躍するジャズピアニスト、キーボーディスト、作編曲家。
2007年に渡米しバークリー音楽院に入学。翌年師事していたグラミー賞受賞ドラマーTerri Lyne Carringtonのバンドに加入し、プロ活動を始める。その後オーディションを経てジャズ音楽家育成コースBerklee Global Jazz Institute第一期生に選抜され、世界各地のジャズフェスティバルに出演する傍ら現地ミュージシャンへのマスタークラスを行う。
卒業と同時に拠点をニューヨークに移し、Blue Note, Jazz at Lincoln Center, Smoke, Small’s, Jazz Standard,Birdland等のNYC主要ジャズクラブに数多く出演しながら、Takuya Kuroda, Jose James, MISIA, Terri LyneCarrington等の様々なバンドのツアーに参加し、これまでに約30カ国に上る世界各国のジャズフェスティバル、ジャズクラブにて演奏している。2016年にはジャズピアノの世界大会Jacksonville Jazz Piano Competitionにおいて日本人として初の優勝を果たす。。
日本においても東京ジャズやビルボードライブなどの著名な会場にて数多くの来日公演を行なっている。近年はジャズシーンのみに止まらず、ソリストとして広島交響楽団とガーシュインピアノ協奏曲ヘ長調を母校広島音楽高校定期演奏会にて客演、福山市政100周年記念委託作品として吹奏楽曲と琴を加えたジャズビッグバンド曲を作曲提供、NYC在住若手ジャズミュージシャンで結成したバンドJ-Squadに参加し、テレビ朝日報道ステーションの現テーマソングを作曲演奏する等その活動は多岐に渡る。