バークリー音楽大学に全学費免除特待生として入学、数々の優秀な成績を修め、権威ある「米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)ハーブ・アルパート・ヤングジャズコンポーザー賞」を2年連続で受賞するなど、ジャズピアニスト・作編曲家として国内外で活躍する垣本拓海さん。現在もボストンに在住し、精力的に活動をされています。「ヤマハ音楽教室」OBでもある垣本さんに、ジャズに目覚めたきっかけや創作活動などについてお話をうかがいました。
音楽を始めたきっかけを教えてください
最初は保育園でのパーカッション。5歳のときにヤマハ音楽教室の体験レッスンを受けたのですが、それがすごく楽しくて「幼児科」に通い始めました。その後「ジュニア科(当時)」へ進級。いつも先生がピアノで弾く歌の伴奏やイントロに興味をもち、自分も弾いてみたいと思ったのをきっかけに、グループレッスンと並行してピアノの個人レッスンも受け始めました。吹奏楽の強豪校だった小学校、中学校ではパーカッションをやっていて練習がかなりハードだったこともあって、ピアノ一筋!ということはなかったのですが、ピアノも趣味のひとつとして、ゆっくり楽しんでいた感じです。
ジャズとの出会いは?
中学3年生の部活を引退した頃に、テレビでたまたま上原ひろみさんの演奏を見たんです。当時の僕は即興という概念すら知りませんでしたから、上原さんのなんとも表現できない音楽に衝撃を受けました。同じように弾いてみたい!と思っても、当時は楽譜が出版されてない。それで自分で耳コピを始めたんです。毎日学校から帰ってすぐピアノに向かってCDを聴いて。何千回と聴いて1曲を仕上げて、次の曲へ。その後は上原さんが影響を受けた音楽家を調べて、オスカー・ピーターソンを知り、ピーターソンの曲を耳コピし続ける(笑)。ヤマハのカリキュラムで「音感」を育ててもらっていたので、できたことですね。すっかりジャズにはまりました。その後小曽根真さんのお父さまである実先生に師事し、先生に背中を押していただいたこともあって、バークリー音楽大学への進学を決めました。自分が好きな音楽家たちがみんな通った学校、何があるのか自分で行って確かめたいと思ったんです。
米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)で2年連続受賞するなど、在学中から素晴らしい成果をあげていますね
作曲の勉強はほぼバークリーに行ってから始めたので、ラッキーもあったと思いますが、同世代の才能ある作曲家と交流ができたという意味でも、ASCAPの受賞はとてもいい経験になりました。
コンテストなど多数応募していますが、コンテストのために書いた曲というのは、実はないんです。僕は曲を書くときに「オーガニック」ということを意識していて、日本語でざっくりと説明するならば、モチーフやテーマが最初から最後まで自然に繋がり、曲を通して発展させられていて、聴き手に作為を感じさせず時間を忘れさせる音楽。それからメロディーに歌心があること。このふたつを大切にして書いた曲から、このコンテストならばこの曲を出してみよう、というスタイルでやってきました。
※下記Youtubeで受賞作品がお聞きいただけます
現在は卒業され、ボストンバレエ団や教会での伴奏ピアニストを務めているそうですね
大学院進学を目指して勉強中の一方で、伴奏者としても活動しています。教会のミサは毎週末4回、バレエ団はボストン音楽院も合わせてほぼ毎日。教会は、行くとその週に弾く曲の楽譜が渡されて、毎回が初見大会です(笑)。僕はバッハの音楽が好きなんですが、そういったクラシックも弾けるし、コンテンポラリーの曲やクワイアーの伴奏もできるのでとても楽しんでいます。
バレエはまったく未知の世界でしたが、こちらもとてもおもしろい。先生が「次はこういう動きをやります」と見せるデモンストレーションから、拍子やテンポ、雰囲気を読み取り、数十秒後には即興で演奏を始めます。音楽が止まったりしたらレッスンが台なしですからすごく緊張しますが、先生方から「ジャズは新鮮、もっと弾いて」と言われると、うれしいですね。
これからの目標は?
コロナの影響で延期になってしまったアルバム制作がまずひとつ。コロナでできなくなったことも多いのですが、時間がたっぷりとれたことで、今まで気が付かなかったものに目を向けることができた。そこから生まれた曲もあり、大好きなブラジルのシンガーTatiana Parraとリモートの形でレコーディングを行う予定です。近いうちに皆さんに届けられたらいいな、と思っています。
自分の曲になかなか100点満点が出せずにいたんですが、世の中に発信して評価してもらうことも大事だし、共有したいからこそ音楽をやっているんだと気が付いてからは、ライブも積極的に企画するようになりました。バークリーで出会った友人や日本で活躍するミュージシャンたちと一緒に、帰国した際に自主企画でオリジナル曲だけのライブをやっています。まだまだ、「オリジナルのジャズ」に敷居の高さがあるのかもしれませんが、今の時代だからこそ生の演奏のパワーを届けたいと思っています。
最後に、ヤマハで学ぶ子どもたちへメッセージをお願いします
歌でも楽器でも、僕みたいに先生の弾く伴奏でも、何でもいいので好きなものを見つけてほしい。それから食わず嫌いにならないで。新しいことのチャンスが巡ってきたら、まずチャレンジ。なんでもやってみる中で、きっと自分の好きなものにも出会えるはずです。
兵庫県姫路市出身。5歳からヤマハ音楽教室に通い始める。高校生のときにジャズに出会い、小曽根実氏に師事。2014年にバークリー音楽大学(米ボストン)へ、全学費免除特待生として入学。ジャズ作編曲科とピアノ演奏科を専攻し、19年夏に卒業。