2018年4月19日(木)、ヤマハ音楽支援制度の「音楽奨学支援」(優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待できる若手音楽家への支援)、および「研究活動支援」(音楽分野を科学的視点で取り組み、音楽教育や音楽文化の向上・活性化に貢献する研究テーマを持つ研究活動・研究者への支援)の2018年度認定証授与式を、ヤマハ音楽振興会本部(東京都目黒区)で開催しました。本年度支援対象者として選ばれたのは、音楽奨学支援10名、研究活動支援2名で、対象者には学習や研究のための奨学金・活動資金が援助されます。
式では、まずヤマハ音楽振興会常務理事の大池真人が登壇し「音楽家、研究者として、音楽を通じて世の中に貢献していきたいという高い志をお持ちのみなさまと関係を深め、頑張っていきたいと思います」と挨拶を述べたあと、一人一人に認定証を授与。その後各対象者が今後の抱負や目標、研究内容の説明を交えながら、支援対象者に選ばれた喜びを語りました。
音楽奨学支援
■進藤 実優さん(授与式は欠席)
15歳/愛知県出身/モスクワ音楽院付属中央音楽学校/専攻:ピアノ
この春私は中学校を卒業し、モスクワ音楽院付属中央音楽学校のヴァレリー・ピアセツキー先生のもとでピアノを学び始めました。ピアノ、音楽理論、和声学などの課題をロシア語でこなさなくてはいけないので大変です。しかし、不安よりも楽しみな気持ちのほうが大きいです。まだ知らない音楽やピアノをたくさん学べること。音楽友達をたくさん作り、お互いの国について、音楽についていろいろ語り合えること。そんな高校生活を通して向上できたらと思います。また、私はこれまでプロコフィエフやラフマニノフなどロシアの作品をあまり弾いたことがありませんでしたが、時には激しく火のように、時には繊細にきらきらとするロシアの作品を、この5年間でたくさん学び、レパートリーにしたいです。このように学ばせていただける機会を決して無駄にすることなく、1つでも多くのことを吸収して帰って来られるよう頑張りたいと思います。
■北村 陽さん
14歳/兵庫県出身/兵庫県立芦屋国際中等教育学校2年/専攻:チェロ
僕は、自分にしかない音を持つチェリスト、音楽の喜びや幸せを世界中の人たちと分かち合えるような音楽家になりたいと思っています。そのためにヨーロッパに留学し、クラシック音楽が生まれたその場所で、自然や文化、言語、歴史に直に触れ、自分の音楽を深められたらと考えています。以前、オーケストラのメンバーとして東日本大震災の被災地に行った時、被災された方が「地震後、泣くことすらできなかったけれど、演奏を聴いて初めて涙が出ました。ありがとう。」と言ってくださったのですが、その時、音楽は人の心の支えになる力があると強く感じました。そして今もその言葉が、僕を後押ししてくれています。将来、音楽で世界中の人たちの心をつなげて、世界を平和にするのが夢です。
■武井 千晴さん
23歳/東京都出身/桐朋学園大学科目等履修生/専攻:マリンバ
私がいつも考えているのは、マリンバの魅力を1人でも多くの人に伝えたいということです。マリンバは安倍圭子先生とヤマハが共同開発して世界に広がっていった楽器で、ピアノやヴァイオリンにくらべればまだ歴史が浅く、レパートリーはポピュラー音楽と思われがちなのですが、実際には真に芸術的な音楽を表現することができます。より多くの人にマリンバを愛してもらえるよう、いただいた奨学金で一生懸命勉強していきたいと思います。この感謝の気持ちを音にして、世界に羽ばたけるよう頑張ってまいります。
■伊藤 修栄さん
14歳/韓国・京畿道出身/岐阜県恵那市立恵那東中学校3年/専攻:クラリネット
このたびは奨学生に選んでいただきありがとうございます。そのおかげで、これまで以上にたくさん東京でのレッスンに通うことができることを本当にうれしく思っています。僕は、自分の演奏を通して多くの人に、音楽の、そしてクラリネットの素晴らしさを伝えられたらと思っています。そのためにもレッスンの頻度を増やし、マスタークラスや講習会などにも積極的に参加していきたいです。そして技術を高め、表現力をしっかり身につけ、将来は日本を代表する世界的演奏家を目指したいと思っています。
■小川 結子さん(授与式は欠席)
24歳/神奈川県出身/ブリュッセル王立音楽院学士課程3年/専攻:サクソフォン
音楽とは、私にとっての「ごはん」です。大きくなってから、その存在のありがたさに気がつき、そのおいしさを知ってから私はやみつきになりました。より深い味わい方を伝えてくださる師と、それらを分かち合ってくれる仲間に恵まれ、私をどんどん新しい世界へと送り届けてくれました。芸術が日常生活のすぐ隣にあるヨーロッパに身を置いて、もうすぐ6年が経ちます。いつか私の作るごはんも誰かの心の栄養になると信じ、より一層の覚悟と希望を持って、音楽の道を邁進していきたいと思います。
■夏目 友樹さん(授与式は欠席)
25歳/兵庫県出身/スイス国立チューリッヒ芸術大学2年/専攻:チューバ
2016年9月にチューリッヒ芸術大学に入学し早1年半。卒業までも残すところ1年半となりました。スイスの物価、生活費の高さにより、当初は学士課程を修了するまでが限界かと思っていましたが、ご支援をいただけることで修士課程までヨーロッパで勉強できることになりました。私は日本の大学の経済学部を卒業し、2年前まで一般企業で働いていました。その時には、今自分がこうして音楽に没頭できる素晴らしい環境にいるとは想像できませんでした。これもひとえに、ご支援いただいているみなさまと、応援してくださる方々のおかげで、一歩踏み出す勇気を常に持ち続けることができたからだと思っています。将来は、私にしかない経験を生かし、音楽を通してみなさまのお役に立てるような、またたくさんのことを共有できるような演奏家、音楽家になりたいと考えています。これからも初心と感謝の気持ちを忘れず、ただひたすら邁進していきます。
■小西 佑果さん
19歳/石川県出身/国立音楽大学2年/専攻:ウッドベース
国立音楽大学ジャズ専修に入学し、1年が経ちます。素晴らしいミュージシャンである先生方、そして自分と同じく音楽を志す仲間とともに勉強できるのは本当に刺激的で、そんな濃い日々を送れることに感謝しながら毎日を過ごしています。今後はますます練習に励み、できないことにひるまず、挑戦していく姿勢を大切にしていきたいと思います。将来は世界に通用するジャズ・ベーシストとして活躍できるよう頑張ってまいりますので、これからもよろしくお願いいたします。
■梅井 美咲さん
16歳/兵庫県出身/兵庫県立西宮高等学校2年/専攻:作曲
私は4歳の頃からヤマハ音楽教室の幼児科に通いはじめて、その後ジュニア専門コースに進級しました。高校2年生となった今もヤマハ音楽教室に在籍しています。ジュニアオリジナルコンサートに出演するにあたって作曲を始めた小学1年生の時は、何もかも思うようにいかず苦労しましたが、たくさんの音楽に触れ、様々な経験を重ねていくうちに自分らしい曲を作る事ができるようになり、作曲する事の楽しさを知ることができました。現在は、音楽科のある学校で作曲専攻としてクラシックの作曲法を学びながら自分の好きなテイストでオーケストラの編曲をさせていただいたりもして、とても刺激的で充実した生活を送っています。今年は北海道のグループキャンプや、長期休暇中にジャズの本場であるアメリカでジャズの講習を受講し、今まで以上に刺激を得て音楽の視野を広げたいです。将来は世界中の人に感動を与える事ができるような音楽家になりたいです。精一杯頑張ります、よろしくお願い致します。
■垣本 拓海さん
24歳/兵庫県出身/バークリー音楽大学4年/専攻:作曲・ピアノ
ボストンのバークリー音楽大学に留学し4年が経ちます。これまでジャズの作曲・演奏について専門的に学んできましたが、最近ではクラシックの作曲についても学びはじめました。卒業後はニューヨークの大学院に進み、より高度な作曲技法や専門知識を身につけ、作曲家としての腕にさらに磨きをかけたいです。またジャンルにとらわれず、世界中にある多様な音楽に良い影響を受けながら、その中で自分にしか作れない音楽を追究していければと考えています。将来は、音楽性、人間性ともに一流と言われる音楽家となれるよう、初心を忘れず、常に謙虚に、自分が本当にやりたい音楽を目指していきたいと思っております。
■大井 駿さん
25歳/東京都出身/ザルツブルク・モーツァルテウム大学 指揮科3年・ピアノ科4年/専攻:指揮
ヨーロッパで音楽を学びはじめて6年になります。まずパリでピアノを、そしてザルツブルクに移ってからは並行して指揮も勉強しています。そんな経歴を踏まえて、今後の抱負をお話したいと思います。まず指揮者としてですが、自分で音を出すことのない職業だからこそ、オーケストラの団員を納得させられる音楽観や信頼感、そしてこの人と一緒に演奏したらおもしろそうだというスリル感を持ちたいと思っています。一方ピアニストとしては、指揮とは逆に自分1人で全部完結できてしまう楽器ですので、指揮のノウハウを生かしながら、かつピアノにしかできないような音楽を作っていきたいと考えています。私たちは西洋人とは歴史も文化の背景も違いますが、だからこそ客観的に西洋文化を考えることができるかもしれません。そんな日本人としての視点を生かした音楽を生み出していけたらと思っております。
研究活動支援
■奥 貴紀さん
所属:ソニーコンピュータサイエンス研究所 非常勤研究員/研究テーマ:あがりに伴う手指運動の巧緻性低下のメカニズムの解明
「あがり」というのは音楽家やスポーツ選手にとってとても重要な問題であり、これまでにも様々な研究がなされています。ピアニストの場合ですと、緊張状態では腕の筋肉が固まってしまう、脳の特定の部位の活動が変わってしまうなどのことが分かってきています。しかし、実際に楽器に触れている手指の部分の動きが、緊張しているときにどう変わってしまっているかということは、実はよく分かっていません。それを解明しようというのが、この研究です。具体的には、ピアニストの被験者に指の関節の角度を測れるセンサーの入っている手袋を着けてもらい、緊張している状態での演奏の手指関節の動きのデータを取ります。同時にアンケート調査によって、被験者の性格やあがりに対する反応の傾向などの、心理的な特性を調べます。それらのデータに対して統計的な解析を行うことで、人間の心理的特性とあがりによる手指運動の変化の関係を明らかにします。簡単に言うとーーこういう性格の人はあがると手の動きがこう変わってしまいこんな失敗をしやすい――ということを解明し,将来的にはーー だから自分はあがったときにここで失敗しやすいから、ここに気をつけてこういう練習をしよう ーーといった、音楽家一人一人に向けた、あがり対策の練習法の開発にもつながる研究をしたいと考えています。今後も、すべての音楽に携わる人に貢献できるような研究をしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
■山家 智之さん
所属:東北大学加齢医学研究所 教授/研究テーマ:聴衆は本当に楽しんでいるのだろうか?~聴衆の皮膚表面多次元循環解析による自律神経機能解析
音楽の価値を考える際、もちろん演奏家も大事ですが、その真価を決めるのはそれを受け取る聴衆ではないか――そんな観点から、音楽を聴いている時のきき手の反応を解析しようというのが本研究のテーマです。東北大学では、音楽を聴いている人の顔の循環を外側から自動解析できるようなプログラムを作りました。これによって循環の揺らぎ動態、交感神経・副交感神経の状態、高次脳機能、ひいては頭の中身までが見えてくると言われています。このシステムが確立すれば、世界の音楽のすべての価値が診断できる、そんなふうになれば素晴らしいんじゃないかと考えております。また我々は心臓についての研究も行っているのですが、良い音楽を聴くと、演奏者の心臓の鼓動に、聴いている人のそれが同期してくることがわかっています。本日ご出席の音楽家のみなさまが、聴衆の心臓を同期させるような素晴らしい演奏家となられますよう、心より期待しております。