国内外の若手ピアニストたちが熱演を披露する「ヤマハライジングピアニストコンサート」の第2弾が、2020年1月21日(火)、22日(水)の2日間にわたり、ヤマハホール(東京都中央区)で開催されました(主催:ヤマハ株式会社)。1日目の21日には、ヤマハ音楽教室「専門コース上級」に在籍する大同理紗さん、ヤマハ音楽支援制度2017年度「音楽奨学支援」対象者の平間今日志郎さん、上田実季さんの他、韓国、ロシア、フランスの将来有望な若者たち6人が、それぞれの個性を生かした演奏を披露しました。
1人目は、黒のドレス姿のイム・ジュヒさん(韓国)。ショパン『バラード第1番』は、ゆったりと柔らかな序奏からうねるような情熱にあふれる中間部、そして怒涛のようになだれ込むラストと、コントラストがくっきりとした演奏。オーケストラ作品をピアノ版に編曲したストラヴィンスキー『火の鳥』は、体全体を使って激しいパッセージを弾いている姿が圧巻でした。
続いて登場した大同理紗さんは、リスト『超絶技巧練習曲』からの3曲を演奏。第1番「プレリュード」は、最初の一音からパッと空気がかわるような素直で明るい和音から始まり、力強く音を響かせます。第2番は、軽やかさの中にもぶれない太い芯のある音。第12番「雪かき」は、細かなトリルで雪の降り始めを表現し、だんだんと降り積もって、最後にはあたり一面が真っ白になっていく映像が目に浮かぶようでした。プロコフィエフ『ピアノ・ソナタ第1番』を弾く前には、膝の上で指の動きを確認。腕を柔らかく使ってダイナミックかつロマンティックな表現で、きらびやかな演奏を披露しました。大人顔負けの演奏をしたあとの、15歳らしいあどけない笑顔が印象的でした。
前半の最後は、黒い衣装に身を包んだアレクサンダー・ボルトンさん(ロシア)。バッハ=リスト『オルガンのための6つの前奏曲とフーガ第1番』は、会場の音響をうまく使い、教会のオルガンのような響きで静謐さな雰囲気をかもしだしていました。ショパン『バラード第1番』は、温かな音から始まり、全体のハーモニー感をくずすことなくメロディーを際立たせた演奏で、先のイム・ジュヒさんとはまた違ったバラードを聴かせてくれました。
20分の休憩をはさんだあと、後半は平間今日志郎さんが登場し、バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番』をラフマニノフが編曲した作品から3曲を演奏。「前奏曲」は、とても愛らしく軽やかな音。かわいい鳥たちがたくさん集まってきてざわめいているよう。「ガヴォット」は、軽やかな中にも情熱がこもっていて、平間さん自身も深く自分の音楽に入り込んでいたのか、ゆっくりと宙を見上げながら演奏する場面もありました。「ジーグ」は、コロコロと駆け回るメロディーが、まるで追いかけっこをしているような軽快さがありました。ラフマニノフ『ピアノ・ソナタ第1番』は、深い和音の響きと色彩感のあるハーモニーで、重厚で壮大な音楽を表現していました。
5人目は、マリー=アンジュ・グッチさん(フランス/アルバニア)。ラヴェル『鏡』からの第3曲「海原の小舟」は、細かいペダル運びと高度なテクニックに裏打ちされた連打音が、水の表面を揺れ動くさざ波のよう。バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番』からブゾーニが編曲した作品を演奏した「シャコンヌ」は、自分の内面を深く掘り下げた真摯な演奏でした。
最後に登場した上田実季さんが、軽く腕を組み、少しうつむいて何かをじっと考えてから弾きだしたのは、ショパン『バラード第2番』。小さな弱い音まで神経を行き届かせた音色で、なつかしさを感じさせるハーモニーとメロディーをていねいに弾いたあと、静寂を切り裂くような激しい情動を磨きぬかれたテクニックで表現していました。スクリャービン『ピアノ・ソナタ第7番「白ミサ」』は、神秘的な連打音とハーモニーが現実と幻想の世界を行ったり来たりしているような不思議な雰囲気。神経を研ぎ澄ませた演奏は、静かに演奏が終わる最後の瞬間まで神聖でおごそかな世界観を生みだしていました。
※大同理紗さんが第1位を受賞した「第4回ヤマハジュニアピアノコンクール」リポートはこちら
※平間今日志郎さんの音楽奨学支援活動リポート(2017年12月公開)はこちら
※上田実季さんの音楽奨学支援活動リポート(2019年4月公開)はこちら