研究活動支援対象者の活動レポート

聴衆は本当に音楽を楽しんでいるんだろうか?
~聴衆の皮膚表面多次元循環解析による自律神経機能解析東北大学 加齢医学研究所 非臨床試験推進センター 山家智之教授 インタビュー2019年07月01日 取材

東北大学 加齢医学研究所 非臨床試験推進センターに所属し、最先端のメディカルエンジニアリング研究で、新しい診断法・治療法の開発や臨床医学研究をおこなっている山家智之教授(以下、山家教授)。そんな山家教授の研究「聴衆は本当に音楽を楽しんでいるんだろうか? ~聴衆の皮膚表面多次元循環解析による自律神経機能解析」が2017年度研究活動支援の対象になりました。今回は、この研究テーマに着目したきっかけと、その研究内容について、宮城県仙台市にある東北大学 加齢医学研究所でお話をうかがいました。

音楽を聞いている人の心理状態を、科学的に定量診断したい

東北大学では、人工心臓の研究を30~40年続けています。近年ではロータリーポンプ型の人工心臓が実績を上げつつあるのですが、無拍動となるため脈を測定できず、従来の方法では患者の血圧を診断できません。そこで、脈波伝搬速度の診断装置を使い、血管のトーヌス(緊張度)の変化を測定することで人工心臓を制御し、血圧が高いときには回転数を下げるような自動制御をおこなっていました。東北大学の研究チームではそれを応用し、脈波の診断で血圧が上がりそうな兆候を予測できるシステムを完成させたのです。今回の研究テーマは、この技術が発端となり着想しました。

山家:現在ではさらに技術を進化させて、人間の顔色を映像解析することで脈波の伝搬速度・心拍数・血管のトーヌスが分かるようなシステムを開発しました。人体の顔や手のひらなどを撮影した映像情報から、ダイレクトに脈波や心拍変動を抽出し、カオス解析や脈波の伝播時間差を計測することで、血液循環の揺らぎ動態、交感神経・副交感神経の状態、高次脳機能などを定量診断でき、心理状態を読むことができるのです。この技術により、例えば音楽を聴いている人が、その音楽をどのように受け取っているかを読み取ることが可能になります。

もともと幼少期に鍵盤楽器を習い、学生時代にバンドを組んでいた経験がある山家教授。医師であり医学博士でもあることから、この技術が活きるテーマとして着目したのが、音楽を聴いたり演奏したりする際のさまざまな効果を応用して、心身の健康の回復や向上をはかる「音楽療法」でした。

山家智之 教授

山家:これまで多くの研究者が「音楽療法」について、さまざまな研究を重ねてきました。すでに実際の病院や診療所でも、音楽療法は幅広くおこなわれています。しかし、音楽療法の科学的根拠に関する医学論文は、ほとんどありません。しかし、この技術を応用すれば、音楽療法を施術中の患者の顔色から、自律神経情報を定量診断し心理状態を読み取ることができます。つまり、音楽療法の医学的効果を科学的に定量診断できると考えたのです。

そうした思いの実現に向けて、山家教授は大学から案内されたヤマハ音楽支援制度の研究活動支援に応募。見事に支援の対象となり、研究を進めました。