音楽支援事業開く
活動リポート:井上陽南子さん(ピアノ)
2021年度の支援対象者で、現在、ハノーファー音楽演劇・メディア大学 大学院に在籍されている井上陽南子さんにお話しを伺いました。
現在勉強していること
東京音楽大学付属高等学校を卒業後、ドイツのハノーファー音楽演劇・メディア大学に入学し、現在は大学院修士課程のピアノ科に在籍して2年になります。主科であるソロのレッスンと並行して、ピアノ・デュオや声楽伴奏などの授業を受講したり、ヴァイオリンのクラスで専属伴奏をしています。
音楽を始めた頃の思い出
両親や当時通っていた幼稚園のシスターが、家や学校以外の世界をもう一つ持たせてあげたいと音楽を勧めてくれたのが音楽を始めたきっかけだったと思います。初めてのピアノのレッスンの日、先生とちょっとした受け答えをしたり、鍵盤に触って音を出したりと、全てが未知のものでとても楽しかったのを今でも覚えています。音楽についての個人的に印象深いもう一つの思い出は、ちょうどそのくらいの時期に母が弾いてくれた"パピヨン"のテーマでした。なんて悲しくてきれいな曲なのだろうと幼心に感動して、初めて自分もピアノで何か弾いてみたいと思いました。今考えると、当時から私の音楽の好みは変わっていないのだなと実感します。今でもレパートリーはつい短調の曲を選びがちになるので、バランスに気をつけて曲選びをしていますが、もの悲しくロマンチックな音楽、流麗な歌心や内省的な表現が必要な曲により惹かれます。
素晴らしい先生方との出会い
ハノーファー音大に入学してからの学士課程は、ベルント・ゲツケ先生とオリヴィエ・ギャルドン先生に師事しました。レッスンのたびに自分の足りない部分に直面して落ちこむこともありましたが、ゲツケ先生の誠実で哲学的な楽曲解釈や幅広い知識、ギャルドン先生の明快で色彩豊かなピアニズム、そのどちらにも同時に触れることができた4年間は本当に刺激的でした。それぞれの先生の最初のレッスンで、先生がフレーズの一音目を弾いた瞬間の音色の素晴らしさには圧倒されましたし、この曲にこのような解釈やアイデアが存在するのかといった、世界が開けていくような感覚は忘れられません。留学をする前も留学をしてからも、今まで多くの素晴らしい先生との出会いに恵まれたのは本当にありがたいことだったと思います。高校3年生の時に手を故障してから、本来の調子に完治するまで数年かかったのですが、思うように練習ができない期間も、当時師事していた先生方から、ピアノを弾くときのより良い身体の使い方や、私の手に合うさまざまなレパートリーを教えていただいたことは、ふとしたときに将来を悲観しすぎそうになるのを防いでくれていたように思います。いつか自分が生徒を持つようになったときに、このような問題に対して、指導者としてそして人としてどう向き合うのか、改めて考えさせられた期間でもありました。
今後の目標
ベートーヴェン、ブラームス、アルベニス、ドビュッシー、スクリャービンなど取り組みたい作曲家や作品は数多くありますが、それらを地道に学びながらより質の高い演奏解釈ができるようになりたいです。そのためにもソロはもちろんですが、室内楽や声楽伴奏などのレパートリーもさらに広げていきたいです。大学院に入ってからそういった機会がますます増えたので、ドイツや日本でもソロ・室内楽のリサイタルを企画したいです。作品に真摯であることをどこまでも追求し、人生を通して幅広く勉強し続けていきたいですし、そうやって得たものを多くの人達とさまざまな形で分かち合えたらと思います。
井上陽南子(Hinako Inoue)さんプロフィール
- 東京音楽大学付属高等学校ピアノ演奏家コース特待生奨学金授与、
- 同コースを優等賞を得て卒業後、渡独
- ハノーファー音楽演劇・メディア大学にて、ベルント・ゲツケ氏、オリヴィエ・ ギャルドン氏に師事、
- 学士卒業試験を最優秀の成績で卒業し、同大学院にてベルント・ゲツケ氏に師事
これまでに、久保山千可子、江夏範明・祐子、武田真理、鈴木弘尚の各氏に師事
- 2018年 第3回トカチェフスキ国際ピアノコンクール優勝
- 2019年 第4回ヤング・ピアノスターズ国際ピアノコンクール第3位
- ポーランド・ブスコズ ドロイにてショパン音楽祭出演
- 2020年 ドイツ・アウリヒにてベートーヴェンピアノソナタ全曲録音演奏会出演
- 2021年 第2回ラドブリツァ国際ピアノコンクールファイナリスト入賞
Live Music Now 室内楽オーディションに合格後、声楽アンサンブル Le Grand Ensemble Fiascoのピアニストとしてハノーファーにて演奏活動中