ヤマハ音楽支援制度は、優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待される若手音楽家への支援として「音楽奨学支援」(13歳以上~25歳以下)を実施しています。
今回は2018年度の支援対象者で、現在、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校1年に在学中、クラリネット専攻の伊藤 修栄さんにお話を伺いました。
プロフィール:伊藤 修栄(イトウ シュウエイ)2003年韓国龍仁市出身
9歳からクラリネットを始める
2014年5月 第63回EWHA&GYUNGHYANG CONCOURS(韓国)管楽器クラリネット部門 小学生の部 第2位
2015年8月 日本クラリネット協会主催 第8回ヤングクラリネッティスト コンクールジュニアA部門 金賞受賞
2015年10月 第16回大阪国際音楽コンクールSection III ユース部門インファントAコース 第2位
2016年1月 Child Aid Asia 2015コンサート出演(サントリーホール)
2016年1月 第21回KOBE国際音楽コンクール 管楽器部門 小学生の部 最優秀賞、神戸教育委員会賞受賞、同コンクールガラコンサートに出演
2016年5月 第8回岐阜国際音楽祭 クラリネット部門 中学専門コース 第1位、全部門において準グランプリ受賞
2016年10月 第17回大阪国際音楽コンクール Section I 木管楽器部門Age-J 第3位(最高位)
2016年10月 第10回横浜国際音楽コンクール 管楽器部門 中学の部 第1位、最優秀審査委員賞受賞
2017年7月 第3回K木管楽器コンクール 第1位、Kコンクール特別賞受賞
2017年8月 Child Aid Asia in Kuala Lumpur 2017 コンサート出演
2018年10月 岐阜市新進演奏家コンサート出演
2018年12月 第68回こども定期演奏会に、こども奏者として出演
欧日講座、京都フランスアカデミー、石見銀山国際音楽アカデミーを受講。M・アリニョン、N・バルディルー、P・メッシーナ、R・ギュイオ、F・エオー、A・カルボナーレ、P・ベルトラミーニ各氏のマスタークラスを受講。これまでにイ・ドユン、竹内雅一、横川晴児の各氏に師事。
音楽を始めたきっかけ
韓国で生まれた私は、幼稚園の音楽教育の一環でオカリナを習いました。オカリナを吹くのが大好きで、いつも練習していました。周りの音楽をやっている方に誘われて、ピアノやヴァイオリンなどとアンサンブルをしたり、ちょっとした演奏会やコンサートにも出るようになりました。多くの方に演奏を聴いてもらい「音が素敵だね、きれいな音色だね」と褒めてもらい、とてもうれしかった記憶があります。その時から演奏の楽しさを感じていたと思います。
小学校1年生の時にドラマでクラリネットを演奏する場面を見て、「これだ!」と思いました。クラリネットの教室を訪ねて行ったのですが、その時はまだ手も小さかったのでクラリネットのキーに指が届かず「もう少し大きくなってから始めましょう」と言われ、ショックで仕方がありませんでした。
その後、半年ほど経ち、大して手の大きさは変わらなかったのですが、念願のクラリネットを買ってもらい教室を訪ねて行ったのを覚えています。
最初は息も続かず、大変な思いをしましたが、やはり吹くのが好きで、きれいな音を出せるように模索していたのを覚えています。
印象に残った先生、経験
小学校5年生の時に韓国から日本に引っ越してきました。韓国で良い先生に導かれクラリネットを続けてきましたが、日本に来てからは思うようにクラリネットのレッスンを受けることができず、やめようと思ったことがあり、両親に泣いて相談したこともありました。そんな絶望的な状況の中、竹内雅一先生と出会うことができ、本当にお世話になりました。自分がここまで頑張ってこられたのも、竹内先生のご指導のおかげだと思っています。
現在は横川晴児先生のもとで勉強させていただいています。毎回のレッスンがとても新鮮で、学ぶことがたくさんあります。音の表現の仕方など、毎回のレッスンで自分の力量不足を感じるばかりですが、もっと上達したいというモチベーションが上がります。
印象に残る経験はいくつかありますが、小学校6年生の時に「Child Aid Asia 2016」のオーディションに通り、サントリーホールでのコンサートに参加したことです。インドネシアから招待されたピアニストと共演させてもらいました。多くの観客の中でホールに立ち、ものすごく緊張しましたが、自分が吹いた音の響きがすごく気持ちよくて、楽しく演奏させていただきました。あのサントリーホールでの音の伝わってくる感覚は忘れられません。あの時のソロの演奏経験は私に刺激を与えてくれました。もっともっと上手になりたいと強く思いました。
その後、2017年に開催された「Child Aid Asia in Kuala Lumpur」に招待していただき、マレーシアのクアラルンプールまで行ってきました。2016年に東京で行われたコンサート同様、インドネシア、マレーシア、フィリピンから来た演奏者との共演でしたが、最初は言葉が通じなくて苦労しましたが、演奏を通して徐々に心が通じ合えた気がします。音楽は世界共通語なのだと改めて思いました。年齢や文化の違いがあるにもかかわらず、お互いに音楽を楽しみ創り上げていく楽しさを体験したコンサートでした。
2018年12月、「第68回こども定期演奏会」に参加させていただきました。東京交響楽団の皆さんと一緒にオーケストラに入って演奏する機会をいただきました。プロの皆さんの演奏の正確さや音楽表現の仕方など、圧倒されることばかりで本当に勉強になりました。
将来、私も一流の奏者になれるように、もっと勉強し、練習して上手になりたいとあらためて実感しました。
影響を受けた音楽家、好きな音楽家
自分が日本に来てから お世話になった先生方の影響は本当に大きいと感じています。
横浜国際コンクールで最優秀賞と最優秀審査委員賞をいただいたのですが、その後、審査委員をされていた生島繁先生からご連絡いただき、東京で世界的に有名なクラリネット奏者のマスタークラスがあるので、それに参加したらどうかというお誘いをいただきました。
そこで生島先生と繋がりができたことで、自分の音楽の道が切り開かれたと思います。
それから度々東京でマスタークラスを受講し、講習会にも集中的に参加することができました。生島先生にお声をかけていただき本当に感謝しています。
シューマン、ブラームスの曲をよく聴くことが多いです。ブラームスは交響曲も好きですが、クラリネット五重奏曲、クラリネット・ソナタも好きでよく聴きます。同じ曲でも演奏者によってかなり違うので、聴いていてとても勉強になります。
印象に残っている演奏家は、アレッサンドロ・カルボナーレ氏、パトリック・メッシーナ氏、ミシェル・アリニョン氏です。アリニョン氏が演奏されたシューマンの『3つのロマンス』を聴いたのですが、音の一つ一つの表現の仕方が何とも言えず、圧倒された演奏でした。
あの演奏は一生忘れられません。
今後チャレンジしたいこと
今年の4月に東京藝術大学音楽学部付属高等学校に入学し、一人暮らしをしながら学校に通っています。いろいろなスケジュールに追われ、毎日こなしていくのが精一杯の状態ですが、今後近いうちに、いくつかのコンクールに出場する予定です。今は練習を重ね、葛藤しながらも、いろいろ学ぶことのできる時だと思っています。
学校ではクラリネットのレッスンはもちろん、ソルフェージュ、理論を始めオーケストラの授業、東京藝大の1年生の先輩方との管打合奏と室内楽の授業などもあるので、音楽的な勉強もたくさんできます。多くのことを学び、自分の音楽の幅を広げ、クラリネットの持つ良い音色を最大限に表現できる演奏家になれるよう精進していきたいです。
将来はヨーロッパに留学したいと考えています。クラシック音楽の本場で、文化、言語、自然を感じながら学ぶことが自分の近い将来の夢です。
これからさらに学んでいくことで、多くの人にクラリネットの魅力を伝えられる奏者になれるよう努力したいと思います。