研究活動支援対象者の活動レポート

フォーカル・ジストニアの演奏家の脳活動 - 機能的MRIによる検討宇都宮大学 工学部 酒井直隆 教授 インタビュー2008年02月21日 取材

深刻な問題、フォーカル・ジストニアから若い演奏家を救いたい

音楽家が抱える手の障害の多くを、手術することなく注射や薬で治療できるようになった現在でも、決め手となる治療法が発見されておらず、演奏家にとって深刻な問題となっているフォーカル・ジストニア。痛みがなく、突然指が勝手に動いてしまうという奇妙な症状は、究極の巧緻動作を繰り返す演奏家が高確率で発症するといわれています。

酒井: このフォーカル・ジストニアは難治性で、そのせいで音楽の道をあきらめてしまった若い音大生も少なくないようです。これは、何とかしなくてはならないということで研究を進めることにしました。幸い、これが脳に起因する症状であることはほぼ間違いない、ということは分かっていました。そこで、今回ヤマハにご協力いただき、fMRIという脳が機能している箇所が画像で分かる特殊な装置で、「フォーカル・ジストニアの症状がある音楽家」、「そうではない音楽家」、「一般の方」という3種の脳活動を測定しました。

fMRIが磁気を使うため、特別に非磁性体楽器としてチタン製のフルートとクラリネットを用意したという今回の研究。それぞれの演奏家が非磁性体楽器を構えながらfMRIの撮影に臨んだそうです。

酒井: フォーカル・ジストニアを治療していると、人によって病像が異なることを実感します。しかしその詳細は分かっていません。これが明らかになれば治療法にも大きな進歩が期待できます。また、fMRIは非常に先進的な検査ですので、音楽家と、そうでない一般の方の脳活動に違いを見出すことさえできます。このため、フォーカル・ジストニアの脳の異常を調べる前に、あらかじめ音楽家の脳と一般の方の脳を比べておく必要があるんですよ。

2007年3月までに収集したデータを解析するため、統計学専門の方と議論を進めていかなければいけません。何しろ莫大な情報量なので、時間がかかっています。非常に難しい問題で、まだ発表できる段階ではないのですが、印象でいうと「フォーカル・ジストニアの症状がある音楽家」、「そうではない音楽家」、「一般の方」には、やはりそれぞれの脳活動には、明らかな違いがありそうですね。

今回の脳活動測定に使用した非磁性体楽器、チタン製のフルートとクラリネット

脳が機能している箇所の血流動態反応を視覚化するfMRI装置