研究活動支援対象者の活動レポート

音楽練習室のためのステージ音響シミュレーションシステムの応用東京大学 生産技術研究所 上野佳奈子 助教 インタビュー2007年11月28日 取材

演奏者にはおおむね好評。練習室での実用性は確認できた

今回の実験では、フルート、クラリネット、オーボエ、バイオリンなど、複数の楽器の演奏者の方に協力してもらい、響きのパターンを何種類か変えるともに、シミュレートされた反射音を返すスピーカーについても3種類用意して、演奏者に評価してもらいました。

まず、全体的な評価として、練習室にコンサートホールの音場(音波が存在する空間)の豊かな響きを再現することには成功したといえます。特に響きが少ない練習室では、演奏が力みがちになるようですが、こうしたシステムがあれば力を抜いて楽に演奏できるという声があり、普段の練習でも有用であることが指摘されました。また、初学者には練習の楽しみが広がるというメリットがあり、中上級者には曲の仕上げ段階での曲想・表現作りや響きを利用した演奏の練習といったことが可能になるということで、利点・ニーズを指摘する意見が多く聞かれました。
スピーカーの違いについては、はっきりした優劣は確認できませんでしたが、逆に言えば使う人の好みや楽器との相性で選べばよいという結果だと解釈しています。

気になっていた練習室そのものの反射音についても、大きな影響はなく、総じて練習室における音響シミュレーションシステムは、実用に耐えるものだということを確認できました。

演奏者にとってよりよいホールの設計を追求していく

今回の研究成果を受けて、上野助教は次のような総括と展望を話しました。

上野: 今回の研究で、練習室における音響シミュレーションシステムの実用性については、可能性が見えてきたといえます。一方で、設置や操作といった点では課題を残しています。今回は、ヤマハ音楽振興会の研究チームとの共同研究でもあり、部屋の吸音処理やマイクやスピーカーのチューニング・セッティングについては、専門家の力を借りることができましたが、汎用性を追求するためには、誰でも簡単に使えるような仕組みを考える必要があると思っています。

実験室のセッティングのみならず、協力者になる演奏者のアサインにも、ヤマハ音楽振興会との共同研究の大きなメリットがあったと話す上野助教。今後、演奏者がさまざまな響きの中で演奏できるという観点とは別に、自分の演奏が客席でどのように聞こえているのかを確認できるようなシステムの開発も視野に入れているそうです。最終的には、演奏者が自分で感じている音の感覚と客席での聞こえ方とのギャップが少ないようなホールの設計ができるようにしたいとのこと。演奏者にとってよりよいコンサートホールの設計とは?上野 助教の研究はまだまだ広がっていきます。

支援対象者プロフィール

上野佳奈子 助教

東京大学 生産技術研究所

支援対象研究

課題名
音楽練習室のためのステージ音響シミュレーションシステムの応用
研究期間
平成18年4月~平成19年3月