研究活動支援対象者の活動レポート

乳児の音声インタラクションにみる音楽の発達的分岐京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科 嶋田容子 研究員 インタビュー2012年01月31日 取材

生後8カ月目と生後18カ月目で、「声の重なり」の性質が変化

今回の研究では、人間の発声行動が、合図や発話ではなく音楽的構造に発達していくプロセスを捉える目的がありました。そのため、まずは発声行動がまだ音楽と言語のどちらでもなく、あいまいな状態である乳児を実験の対象としました。また、対象の乳児の月齢としては、喃語が出始める生後8カ月と、会話の形式が分かり始める18カ月が選ばれました。

嶋田: この調査は、協力してくださるご家庭を訪問し、乳児と養育者(両親と2~4歳のきょうだい)のやり取りをビデオで撮影する形で行ないました。そして、その映像データから、乳児が発声した時間と母親が発声した時間を記述し、お互いの声が重なっていたタイミングと長さを算出しました。そして、同じ乳児が18カ月を迎えたときに同じ観察を行ない、2つのデータを比較しました。

その結果、8カ月の乳児と母親のやり取りにおいて、声が重なっていた時間が発声時間の約20%を超えました。それが18カ月の時点では13%と「声の重なり」は顕著に減っていたのです。

8カ月の乳児の方が母親と声が重なる時間が長かったのですが、しかしその一方で、声の重なりの少なくなった18カ月の乳児には、声を重ねるときに相手を選んでいるような特徴が見られました。

嶋田: 8カ月の乳児と母親とのやり取りの場合、声を出すタイミングがたまたま合ってしまっているような特徴が見られたのですが、乳児が18カ月になったとき、そうした特徴は減っています。乳児は、18カ月頃になると相手の発声が終わるのを待って交代で発声できるようになるといわれており、大人とのコミュニケーションにおいてはその傾向が強く出たと考えられます。

ところが、同じ時期、お兄ちゃん・お姉ちゃんとのやり取りにおいては、遊びや歌の中で乳児が自分から声を重ねるような発声行動が多く見られました。このことから、乳児は、18カ月になるとコミュニケーションの形態を2つ獲得し、相手との関係に応じて使い分けることができるのではないかと考察できます。

乳児と成人の声の重なった割合

乳児と成人・幼児の声の重なった割合

専用ソフトによる分析画面

実験風景

実験時の音声データ