研究活動支援対象者の活動レポート

超絶技巧を生み出す運動技能の解明上智大学 理工学部 古屋晋一 准教授 インタビュー2016年08月01日 取材

医学と工学の領域を融合した医工学を専門に研究を進めるかたわら、2015年に日本で初めて設立された、音楽家のための医科学研究を行う機関、音楽医科学研究センターのセンター長を務めている古屋晋一准教授(以下、古屋准教授)。そんな古屋准教授の研究「超絶技巧を生み出す運動技能の解明」が、2015年度研究活動支援の対象になりました。今回は、この研究テーマに着目したきっかけと、その研究内容について、東京都千代田区にある上智大学市谷キャンパスで、お話をうかがいました。

ピアニストの高度な運動技能を、機械学習で明らかに

かつてはピアニストを志望していたものの、手を痛めてしまったために断念したという古屋准教授。その後は、機械工学をベースに、ピアニストに関する研究を行ってきました。中でも、高い技術を持つピアニストと、演奏歴の浅い初心者の身体の動きを比較して、その相違点を抽出。非ピアニストの技術をピアニストに近づけるためには何が必要か、どのような練習が適切か、力を抜いて演奏するにはどうすれば良いか、などについて研究してきました。

古屋:しかし、この研究結果は高い技術を持つピアニストにとって、普段できていることが明らかになるだけで、あまり役立つ情報ではありません。そこで、ピアニスト個人間の差に着目しました。例えばホロヴィッツやリヒテルなどの著名なピアニストたちには個人差があり、速さ・繊細さ・正確さなどに得意不得意があります。多くのピアニストはそうした上手いピアニストの優れた技術を習得するため努力しています。それをもう少し効率良く正しい方向で実施するために、演奏が上手いピアニストの技術を科学的に明らかにすることを考えました。

自身がドイツの音楽大学で研究を進めていた経験から、高い技術を持つピアニストにとって有用な研究テーマを選択したという古屋准教授。「より速く弾けるようになりたい」というピアニストのニーズが多いことから、まず「どうすれば速く弾けるのか」という問題を主題としました。そして、「指や肘、腕や肩の筋力に関連性があるのでは」という仮説を立て、ピアノ演奏時の筋力をセンサーで計測。演奏開始年齢や練習量との関連を調べるため、併せてアンケートも活用しつつ、さまざまなデータを取得することにしました。

古屋晋一 准教授

古屋:データを取得することは誰にでもできます。重要なことは、取得したデータをどのように料理するか、という点です。今回の研究では、データの解析に機械学習の手法を活用しています。よりたくさんのピアニストのデータを取得して、それをコンピューターに読み込ませ、そのデータの中にどういう関連性があるかを学習させながら、さまざまな傾向を明らかにしていきたいと考えました。

学生時代に、大阪大学の木下博教授に師事していたという古屋准教授。その木下教授も助成を受けた「ヤマハ音楽支援制度」を利用して、この研究を進めていくことにしました。