研究活動支援対象者の活動レポート

琉球列島における民謡の文化進化東京大学 理学部 井原泰雄 講師 インタビュー2016年10月19日 取材

人類の進化に興味を持ち、数理モデルを用いて人類の行動に関する進化を研究するかたわら、東京大学理学部生物学科で人類学に関する講義を担当されている井原泰雄氏(以下、井原氏)。そんな井原氏の研究「琉球列島における民謡の文化進化」が、2015年度研究活動支援の対象になりました。今回は、この研究テーマに着目したきっかけと、その研究内容について、東京都文京区にある東京大学本郷キャンパスで、お話をうかがいました。

人類の移住という行動について、琉球民謡から解明していく

人類の進化の研究では、文化もその研究対象の1つとされています。そして、文化の形質が人間の遺伝のように、個体のあいだで伝達されながら、時間の経過とともに徐々に変化していくことを文化進化と言います。この文化進化が、人類の行動に何らかの影響を与えていると井原氏は考えているそうです。そして、その文化進化の1つの事例として、音楽が個体間あるいは集団間で伝播して変化した過程を、数理モデルを用いて分析したいと考えました。

井原泰雄 講師

西川有理 氏

井原:もともと文化進化の分野は、数理モデルを用いた研究がリードしてきましたが、分析するデータがないという状態が続いていました。近年、その数理モデルを用いて実際のデータ分析をおこなう研究が増えていて、音楽に関してもいくつかの先行研究が発表されています。その中のある研究者が開発した、楽曲をそれぞれコード化するスキーム「CantoCore」を活用して、私たちも音楽を対象とした研究を実施してみようと考えたのです。

音楽のジャンルにもいくつかありますが、民謡は長いあいだ世代を超えて歌い継がれてきた文化の1つです。共同研究者である西川有理氏(以下、西川氏)は、沖縄・奄美地方に伝わる琉球民謡に着目。その多様性を分析することで、移住という行動の歴史を再構築できるのではないかと考えました。

井原:沖縄・奄美地方はいくつもの島で構成されていますから、島ごとに別々の文化が維持されやすいはずです。そのため、多様性が見えやすいのではと期待しました。また、琉球民謡の多様性のパターンを分析することで、文化進化の法則性を見いだすことができればと考えました。

西川氏の卒業研究としてこのテーマを固めていた際、タイミング良く東京大学からのメールによって「ヤマハ音楽支援制度」を知ったという井原氏。この支援制度の助成により、この研究を進めていくことにしました。