研究活動支援対象者の活動レポート

大規模コンペティションデータを活用した現代ピアノ教育過程の数理的分析東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター
本間裕大 准教授 インタビュー
2017年11月09日 取材

大規模データを数理的に分析し、ピアノ教育文化の傾向を多角的視点から明示

1977年から開催されているピティナ・ピアノコンペティションの中で、電子データが十分に整理されている1992年~2015年の24年間のデータが、今回の研究の基盤となっています。参加者1人1人の選曲や結果はもちろん、生年月日や住所、学校や学年、指導者などまで記録されている詳細なデータです(※:プライバシー保護の観点から、参加者、指導者ともに名前、住所詳細などの個人情報の詳細を除外されて渡されました)。関係者数約19万5000人、参加件数約56万3000件にものぼる膨大なデータを、本間准教授は手作業を交えながら調整。その後、独自の数理モデルを作り、分析していきました。その中で、今回の研究の柱の1つであるピアノ演奏技術の伝承プロセス、師弟関係についていくつかのことが見えてきました。

本間:まず、参加者がコンペティション参加時に師事していた指導者に着目しました。ある参加者がある指導者にピアノを習った事象を1としたとき、今回のデータでは約38万の師弟関係がカウントされたのですが、これを点と線を用いて可視化しました(図1)。これにより、ピティナのコンペティションに出られるレベルの教え子を1人で複数育ててきた指導者がたくさんいることがわかったのです。有力な指導者に師弟関係が集中する傾向がうかがえます(図2)。また自分の経験から、ある程度上達した教え子が、指導者の指導者に師事することがどのくらい発生しているかを見ていきましたが、こちらはかなり稀なケースであることがわかりました。

さらに本間准教授は、各指導者の重要度についても分析(図3)。ごく少数ながら、きわめて重要度の高い指導者が存在し、その独自のメソッドが教え子へ、さらにその教え子へと伝承されているということもわかりました。次に、ピアノ教育文化という観点で、各都道府県間の社会的な距離を算出することにも取り組みました。

本間:各都道府県の間に、ピアノを介した交流がどのくらいあるか。どのくらいの距離であればピアノを習うために通えるか、あるいは抵抗を示すのかを算出しました。その社会的距離を日本地図に置き換えて図示し(図4)、ある年代別に比較したところ、師弟関係の構築において距離を負担に感じる人が増加傾向にあることがわかりました。遠くに行かず地元の指導者につくケースが増えているということです。また、大都市圏の距離はいつの年代でも近く、ピアノ教育文化が大都市圏での交流を中心として、それに地方都市が付随していることがわかります。

さらに、本間准教授はコンペティション参加者の課題曲とそれを弾いたときの年齢に着目。どのような習得過程があるのかを分析しました。

本間:まず、その課題曲を弾いたときの参加者の平均年齢を算出し、その数値を比較することで、参加者がその課題曲に対して抱く難易度感について推測しました。すると、ショパンのエチュードを除き、その数値に大きな変化はなく、ここ25年で参加者の難易度感に大きな変化はないことがわかりました。また、ある課題曲から次の課題曲に進むまで何年かかったかを抽出し図示したところ、課題曲の難易度感は直線的に増加していることがわかりました(図5)。つまり、課題曲の習得プロセスとしては、順に淡々と進めていくしかないということです。

図1:師弟関係(ネットワーク)の可視化

図2:師弟関係(ネットワーク)の次数(≒教え子の数)分布

図3:関係者の地利値(≒重要度)分布

図4a:社会的距離に基づく日本列島 1992年~1999年

図4b:社会的距離に基づく日本列島 2000年~2007年

図4c:社会的距離に基づく日本列島 2008年~2015年

図5:代表的課題曲の難易度関係