音楽支援事業開く
活動リポート:平井菜々子さん(ハープ)
2022年度の支援対象者で、現在パリ地方音楽院に在籍されている平井 菜々子さんにお話しを伺いました。
ハープを始めたきっかけ
3歳から近所のピアノ教室に通い始め、物心ついた頃には自分の周りに音楽があるのが当たり前の環境でした。学生時代にフルートを習っていた母の影響で、幼稚園生の時に銀座にある楽器店・銀座十字屋さんにハープの体験レッスンに連れて行ってもらい、音色の美しさや弦を弾く楽しさに魅せられました。既にピアノを習っていたこともあり、この時好きだった『となりのトトロ』の曲をすぐに弾くことができてとても楽しくて感動し、絶対にこの楽器を弾きたいと思ったことが今でも忘れられません。偶然小学校の隣駅にある音楽教室にハープがあったことをきっかけに、ピアノからハープに楽器を変更しました。
フランス留学を目指して
小学4年生の頃に『のだめカンタービレ』を観て、留学に憧れを持ちました。私の日本の先生である篠﨑和子先生はフランス留学経験者で、私自身もフランスの曲を多く学び、力強い曲よりもフランスの繊細で色鮮やかな曲が好きだったため、いつかフランスに留学したいと思うようになりました。世界中に素晴らしいハーピストがたくさんいますが、フランス人のハーピスト、イザベル・モレッティー先生の演奏が本当に大好きで、彼女が教えているパリ国立高等音楽院が私の目標になりました。この音楽院は『のだめカンタービレ』で、のだめが留学していた学校だったので、小さい頃に何度も見ていた学校に本当に通うことができるかもしれないと考えると、とてもワクワクします。
小澤征爾音楽塾での経験
私が将来どんな演奏家になりたいかを決めたきっかけとなったのが、2018年に参加した小澤征爾音楽塾のオペラ・プロジェクトです。大学でオーケストラの授業は何度か受けていましたが、オペラに乗るのは初めてでした。それぞれの楽器の特徴に合ったシーンで歌を交えながら場面が移り変わり、オーディエンスを笑わせたりハラハラさせたり、ホールにいる全員で音楽を作り上げている感覚が想像以上に感動的でした。オペラやバレエではお姫様や妖精のシーンでハープのカデンツァが入ることが多く、この時もカデンツァやソプラノ・ソロの伴奏を弾くシーンがあり手が震えるほど緊張しましたが、歌と合わせることの大変さと合った時の感動や達成感を知り、将来オペラの管弦楽団に入りたいと強く思いました。
現在勉強している事
私は背が低く、自分に合った弾き方が分からないまま無理な姿勢で弾き続けた結果、手を痛めてしまうことが多かったので、フランスで音楽に詳しい理学療法士(キネと呼ばれています)を紹介してもらい正しい演奏姿勢や呼吸法を教えていただきました。
呼吸が演奏に及ぼす影響を改めて感じ、日本では呼吸などを重点的に教わる機会が少ないことに気がついたので、フランスにいる間に演奏中の体の使い方をマスターできるよう定期的にキネに通って学んでいます。
また、大学入学から今年の夏まではコンクールに専念していて、特に3年に1度アメリカで行われる国際ハープコンクールは課題曲が多かったため、コンクールの曲ばかり勉強していました。そのため自分のレパートリーがコンクール曲に偏ってしまっていることに最近気がついたので、現在は今まで弾いてみたかった曲や室内楽曲を中心にレッスンをしていただいています。今までは一つの曲を長く深く追求していたので、同時に数曲を短い期間で深い部分まで完成させられるように練習方法を模索中です。
現在師事しているギレーヌ先生はパリ地方音楽院だけでなくパリ国立高等音楽院でも教鞭を執られていて、その授業のアシスタントをさせていただくこともあります。最近ではバロック時代のダンスについて、私が短い曲を数曲弾いて、先生が解説をするという授業がありました。ただ曲を練習するだけでは分からなかったダンスのリズムによる音の取り方の変化や装飾音符の仕組みなどが分かって大変勉強になりました。フランスでは何事も急に決まり、授業やミニコンサートなども1週間程前に突然告げられることが多いので最初は焦ってばかりでしたが、短い期間で曲を準備する訓練になり少し自信に繋がりました。
今後の目標
一番の目標はパリ国立高等音楽院に入学することです。しかし来年度は私が受験できるコースの空きがなく、入試が行われないため、2024年に入学できるように演奏技術を磨き、語学を伸ばすことに集中しようと思っています。
また、ヨーロッパにいる間にできる限り国内外のコンクールに出場しようと考えています。2月にフランスのリモージュでハープコンクールが開催され、課題曲が大好きな曲ばかりだったので、まずはそこで良い成績を残すことができればと思います。
今まで私は現代曲や重く暗い曲調の曲が苦手で、無意識に避けてしまっていました。フランスでは現代曲を弾く機会がたくさんあり、ギレーヌ先生は現代曲も得意とされているので、今後は今まで取り組んで来なかった作曲家や現代曲にたくさん挑戦して、自分の演奏の幅を広げていきたいです。
平井菜々子(Nanako Hirai)さん プロフィール
- 1998年 東京生まれ
- 9歳よりアイリッシュハープを、10歳よりグランドハープを始める
- 2010年 第22回日本ハープコンクールジュニア部門第1位
- 2016年 第28回日本ハープコンクールアドバンス部門第1位
- 2016年 第17回大阪国際音楽コンクール弦楽器ハープ部門第1位、併せて大阪市長賞、松尾博賞を受賞
- 2016年 第68回福井県音楽コンクールハープ部門にて福井県教育委員会賞を受賞
- 2020年 第5回香港国際ハープコンクールプロフェッショナル部門第1位、その他入賞多数
- また、2017年7月に香港にて開催された13th World Harp Congress「Focus on Youth」部門の演奏者に各国の若手ハーピストの中から選出され、ソロ演奏の機会を得る
- 「小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVI」「セイジ・オザワ松本フェスティバル」に小澤征爾音楽塾オーケストラメンバーとして出演、2018セイジ・オザワ松本フェスティバルPRイベントとして 松本、東京にて開催されたデュオコンサートに出演
- 「未来からくる演奏家を聴く会」主催リサイタル、大阪国際コンクール優勝記念コンサート等精力的に音楽活動を行う
- シャンタル・マチュー、ヤナ・ボウシュコヴァ、エマニュエル・セイソン、サーシャ・ボルダチョフ各氏に指導を受ける
- これまでにアイリッシュハープを林妙子氏に、グランドハープを篠﨑和子、篠﨑史子各氏に、オーケストラスタディを井上美江子氏に師事
- 2019年 桐朋学園大学音楽学部卒業後、2021年に渡仏
- 現在パリ地方音楽院在学中、ギレーヌ・プティ=ヴォルタ氏の指導を受ける