活動リポート:竹本 百合子(ヴァイオリン)

竹本百合子

2024年度の支援対象者で、現在ベルリン芸術大学大学院に在籍の竹本百合子さんにお話しを伺いました。

現在勉強していること

私はベルリン芸術大学大学院のマスターソロ課程に在籍し、ラティツア・ホンダ=ローゼンベルグ先生の下で勉強をしています。私の通うベルリン芸術大学では、それぞれの生徒が個々のコンサートやコンクールなどの目標を定め、それに向かって緻密にレッスンをしていただいています。1学期に2、3回の頻度で門下生の試演会が開催され、お互いの演奏をお披露目するというスタイルで、門下生同士切磋琢磨しながら学んでいます。時にはお互いの本番前に生徒同士で試演会を計画し、それぞれの演奏に対して意見を言い合います。現在私は、マスターソロ課程修了試験に向けて、オーケストラで学んだ経験を生かし、コンチェルト、エチュード、リサイタルのための新しいレパートリーの練習に日々励んでいます。
また、学内の室内楽の授業の一環で一流の先生方に学ぶ機会に恵まれ、元「アルテミス弦楽四重奏団」の、Vineta Sareika氏、Gregor Sigl氏からカルテットのご指導をいただいています。室内楽の醍醐味に魅了されている私にとってはこの上ない恵まれた環境です。

その傍ら、ドイツの名門オーケストラの一つであるミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団にアカデミー生、第一ヴァイオリンのセクションの契約団員として2年半在籍させていただきました。在籍中には、オーケストラの経験の他、団員さんからのレッスンや、世界中から選抜された異なる楽器のアカデミー生と、ミュンヘン市内の教会や美術館、BMWのクラブなどでのアカデミーコンサートに出演する機会や、世界各地のツアーに参加させていただく機会もあり、すぐには昇華できないほどの刺激的な経験を積むことができた2年半でした。

二つの都市を行き来する多忙な日々でしたが、革新的で多様性に富んだ国際都市ベルリンと、自然が豊かで、保守的な文化、風習が色濃く残るミュンヘンの両極端の街で活動することで、音楽の好みや人の違いも肌で感じることができ、とても刺激的でした。

ベルリン芸術大学の校舎ベルリン芸術大学の校舎

ミュンヘン・フィルアカデミー生の仲間との演奏後のひとときミュンヘン・フィルアカデミー生の仲間との演奏後のひととき

音楽を始めたきっかけ

母のお腹にいる時から、4歳年上の姉のピアノのレッスンについて行っていたとのことで、言葉を発するより歌のメロディーを口ずさむ方が早く、どうやら姉のピアノの先生の発表会でヴァイオリンを弾いている方の演奏を聴いて、ヴァイオリンという楽器、音色に興味を持ち始めたそうです。
そして、母方の祖父母が半世紀に渡り「NHK交響楽団」の会員で数々の演奏会に通っていたこともあり、祖父母の家では常にクラシック音楽が流れていました。また、私自身が幼稚園、小・中学校をミッション系の学校で過ごしたことから、クラシック音楽や宗教音楽が身近な存在でした。
音楽好きの環境に育ち、自然に導かれるままにヴァイオリンを手にし、気がついたらヴァイオリンが体の一部になっていました。私はシャイなところもあるので、ヴァイオリンを演奏することを通して自分の内面を表現することが好きだったようです。

5歳の発表会にて5歳の発表会にて

印象に残った経験

大学の休みがとても長いこともあり、夏休みの間は、毎年さまざまなフェスティバルに参加し、同世代の異なる地域で勉強する仲間たちと出会い、一緒に生活し、音楽を共有し、たくさん刺激をもらう時間も自分の成長には欠かせません。
2024年7月には、スイスのロール湖畔で2週間にわたり行われる「小澤征爾スイス国際アカデミー」に参加しました。毎日朝の10時から合わせが始まり、夜の10時までの音楽漬けの生活。今井信子先生、原田貞夫先生をはじめとする室内楽のレジェンドの先生方にご指導をいただき、インプットとアウトプットを繰り返すので、個人としても、カルテットとしても成長が目に見え、とてもハードな2週間でしたが、アカデミー終了後には疲れよりもむしろ満たされて、更なる音楽への情熱をチャージできました。私は期間中ブリテンの弦楽四重奏曲を勉強しましたが、メンバーのひとりが、偶然にもブリテンと同じ出身地のヴィオリストでしたので、彼の故郷の景色の写真を共有しながら、4人で曲のイメージを膨らませていきました。

小澤アカデミーでの仲間と小澤アカデミーでの仲間と

小澤アカデミーでのブリテンの演奏後小澤アカデミーでのブリテンの演奏後

2024年9月には「スイスのツェルマット音楽祭」に参加しました。主にベルリン・フィルのメンバーで構成された「シャーロン・アンサンブル」が講師陣となり、室内楽オーケストラでは講師の先生方と共演し、室内楽ではその指導を受けました。この音楽祭では、3、4回ほど異なるプログラムでの本番があり、いかに短期間の合わせで、妥協のないクオリティの高い音楽を作り上げることができるかということを学びました。本番の集中力が凄まじかったです。音楽祭では、ハイキングも企画されていて、トレッキングによって新しい仲間との友情が芽生えたとともに、スイス最高峰のマッターホルンの雄大さを目の当たりにして、ヨーロッパの大自然の厳しさ、美しさを肌で感じたことが、自分の今後の演奏活動にインスピレーションを与えてくれました。

ツェルマットから見たマッターホルンツェルマットから見たマッターホルン

ツェルマット音楽祭の先生と仲間たちツェルマット音楽祭の先生と仲間たち

演奏したプロコフィエフの五重奏曲演奏したプロコフィエフの五重奏曲

また、ありがたいことにミュンヘン・フィルのさまざまなツアーに参加させていただき、その中でも印象に残っているツアーは、2024年2月のアメリカのカーネギーホールでのズービン・メータ氏との公演と2024年11月のトゥガン・ソキエフ氏との日本公演です。
アメリカ公演のプログラムはブラームスの交響曲でしたが、憧れのカーネギーホールでメータ氏のゆっくり目のテンポ設定の指揮により奏でられる、レコードから聞こえてくるようなセピアで重厚なオーケストラのサウンドに、演奏しながら鳥肌が立った感覚を今でも忘れません。
日本公演は5週間にわたるヨーロッパ、日本、中国ツアーのうちの一つで、プログラムはミュンヘン・フィルの十八番とも呼べるブルックナーの『交響曲第8番』とリムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』でした。かつてセルジュ・チェリビダッケ氏とミュンヘン・フィルの築いたブルックナーのサウンドを大音量で弾きながら浴びることができ感無量でした。ツアーは全部で14公演ありましたが、毎公演ごとにさまざまな化学反応が感じられるのも、まさにライブで音楽を聴く、弾くことの真髄だと改めて感じました。

カーネギーホールでのミュンヘン・フィル公演ポスターカーネギーホールでのミュンヘン・フィル公演ポスター

カーネギーホールでのズービン・メータ氏との演奏後のひとときカーネギーホールでのズービン・メータ氏との演奏後のひととき

ミュンヘン・フィル第一ヴァイオリンの団員さんと北京にてミュンヘン・フィル第一ヴァイオリンの団員さんと北京にて

今後の目標

ミュンヘン・フィルでの経験を通して、オーケストラの奥深さを知り、オーケストラの奏者になることに魅力を感じるようになりました。そしていずれチャンスがあれば、オーケストラの中でも室内楽的でリーダーシップを必要とする首席の席に座るという目標も持っていたいです。
また、大学の授業で学び始めた教育学にもとても興味を持ち始めました。ドイツでの経験などを次世代に伝えるという、後進の指導にも少しずつチャレンジしていこうと考えています。
そのためには自分が皆に支えられていることに感謝をしつつ、今は型にとらわれず、音楽に対して常にクリエイティブな耳、アイデア、アプローチを持ち独自の演奏スタイルを確立したいです。さらに一度聴いたら忘れられないような魅力的な音が出せる唯一無二の音楽家を目指して研鑽を積みます。
これらの大きな目標の合間には、気の合うメンバーと大好きなベートーヴェンの弦楽四重奏を全曲制覇するのも私のささやかな目標の一つです。

竹本 百合子(YURIKO TAKEMOTO)さん プロフィール

  • 1998年 神奈川県出身、3歳よりピアノ、4歳よりヴァイオリンを始める
  • 2015年 第69回全日本学生音楽コンクール東京大会高校の部第一位
  • 2016年 第32回かながわ音楽コンクール高校の部最優秀賞および県知事賞(大賞)、受賞者コンサートにて神奈川フィルと共演
  • サントリー室内楽アカデミー第4期生選抜メンバーとして、アンネ・ゾフィー・ムター氏、ムターヴィルトゥオージとファイト・ヘルテンシュタイン氏と共演
  • 東京藝術大学附属音楽高等学校卒業後、同大学を経て、2019年度より渡独し、ベルリン芸術大学学士課程を最高点で卒業、ベルリン芸大在学中、学内オーケストラに選抜され、コンサートミストレスを務めた。これまでに百瀬久美、水野佐知香、澤和樹、堀正文、玉井菜採の各氏に師事
  • またこれまでに「Paul Hindemith-Gesellschaft in Berlin奨学生」、「Lucia Loeser Stiftung奨学生」(ドイツ)、文化庁の「新進芸術家海外研修制度令和2年度研修生」
  • この他、「小澤征爾スイスアカデミー」「ヴェルビエ音楽祭」「ツェルマット音楽祭」(スイス)を始め、「Encuentro de Musica y Academia de Santander」(スペイン)、「マーラーアカデミー」(イタリア)などヨーロッパ内での音楽祭に招待された
  • 現在ベルリン芸術大学大学院マスターソロ課程にてラティツア・ホンダ=ローゼンベルグ氏のもと研鑽を積む。その傍ら、2022年10月よりミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団にアカデミー生として在籍後、契約団員として第一ヴァイオリンセクションに在籍