活動リポート:古澤 香理(ヴァイオリン)

古澤香理

2024年度の支援対象者で、現在ハンス・アイスラー音楽大学(ベルリン)に在籍の古澤香理さんにお話しを伺いました。

現在勉強していること

私は現在ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学のヴァイオリン科に在籍しています。今年の夏ゼメスターをもって修士課程を卒業し、この秋より同大学のコンサートマスター課程で勉強する予定です。大学ではビョル・カン・エンダース先生に習っており、基本的に週に一度のレッスンを受けています。彼女は洞察力、分析力、言語化能力にとても優れた先生で、いつも自分が気がつかなかった角度から的確なアドバイスをしてくださいます。私はハンス・アイスラー音楽大学の修士課程に入る前はベルリン芸術大学の学士課程でマーク・ゴトーニ先生のもとで勉強していましたが、二つの大学の雰囲気、そして先生の教え方には大きく違いがあり、その両方が私にとって大変重要な学びを与えてくれました。
ベルリン芸術大学時代は音楽の本質的な部分をじっくりと時間をかけて学び、ハンス・アイスラー音楽大学に入ってからは具体的な技術や音楽のディテールにも気を配ってより完成度の高い演奏を目指している、という感じです。今年7月にあった修士課程の卒業試験では実技試験の他に論文提出が課されていて、実技試験で弾くプログラムについて論文形式のプログラムノートを書く必要がありました。私は「引用」をテーマにシューマンのヴァイオリンソナタ第2番、イザイの無伴奏ソナタ第2番などをプログラムに組み込み、それぞれの作品がどんな音楽に影響を受け、それがどのように表れているかについて研究して書き、満点をもらうことができました。

ハンス・アイスラー音楽大学の校舎ハンス・アイスラー音楽大学の校舎

卒業試験の演奏中の様子卒業試験の演奏中の様子

大学で勉強する傍ら、2023年から2025年春の2年間はドイツの名門オーケストラの一つである、ベルリン・ドイツ交響楽団のアカデミーに在籍していました。そこではロビン・ティチアーティ氏はじめ多くの一流指揮者のもとでオーケストラのプロジェクトに参加しました。オーケストラの活動の他にアカデミー生に向けたメンタルコーチングや、室内楽のワークショップやコンサートもあり、普段一人で勉強しているだけでは得られないたくさんの経験と刺激を得ることができました。2月を持ってアカデミーの期間は終わってしまいましたが、その後もエキストラとしてしばしば呼んでいただき、オーケストラに参加しています。

ベルリン・ドイツ交響楽団のアカデミー生による演奏会ベルリン・ドイツ交響楽団のアカデミー生による演奏会

ベルギー・ブリュッセルにてピアノ・トリオのリハーサルベルギー・ブリュッセルにてピアノ・トリオのリハーサル

この秋から始まるハンス・アイスラー音楽大学のコンサートマスター課程は、その名の通りコンサートマスターになるための経験を積む場です。大学のオーケストラでコンサートマスターあるいは第2ヴァイオリンの首席を務め、オーケストラスタディのレッスン、そしてソロのレッスンを受けます。私は今までほとんどコンサートマスターを務めた経験がないので、ここで積む経験は将来にとても生きてくると思います。同じくこの秋から、大学生活と並行してベルリン芸術大学の非常勤講師としてマーク・ゴトーニ教授のアシスタントを務めることになりました。音楽的なアドバイスが素晴らしく、そちらに多くの時間をかける先生なので、私は主に技術的なアドバイスを担当するように頼まれました。私は教えることが昔からとても好きなので、大変ありがたい機会です。レベルの高い学生たちにアドバイスをしている中で、こちらが学ばせてもらうこともきっとあると思います。

音楽を始めたきっかけ

母方の祖父が作曲家だったこともあり母は音楽的な人で、もともと趣味でピアノを弾いたりクラシックのCDをよく聴いていたので、母のお腹の中にいる頃から音楽には親しんでいました。のちに母から聞いた話によると、生後まもない私は特にバッハの音楽に強く反応し、好んでいたそうです。今でもバッハは私にとって特別な意味を持つ作曲家なので、それが原体験になっているのだと思います。私が2歳の頃、母が趣味でヴァイオリンを始めました。私は母が練習をしているのを見て「自分も弾く!もっと上手に弾ける!」と生意気な口を利いたそうです(笑)。母はさすがにまだ幼すぎると思ったようでしばらく待たされましたが、4歳になってもまだやりたがっていたので、ようやくヴァイオリンを買ってくれました。ヴァイオリンを始めた頃の私は異常なほどに熱中して、毎日顔を真っ赤にしてヴァイオリンを弾いていたそうです。あまりに集中しすぎてトイレに行かなくなってしまい、病院に連れて行かれたのを覚えています。ヴァイオリンとの出会いはそれほど強烈なものでした。

ヴァイオリンを始めたての4歳の頃ヴァイオリンを始めたての4歳の頃

ドイツのアルゴイでデュオリサイタルドイツのアルゴイでデュオリサイタル

印象に残った経験、影響を受けた音楽家

今年の夏、フィンランドのサヴォンリンナに行きました。湖に囲まれた美しい地で、ここでは毎年、ベルリン芸術大学で習っていたマーク・ゴトーニ先生がマスタークラスをやっていて、訪れたのは今回で7回目です。今年は彼に加えて世界的指導者のアナ・チュマチェンコ先生が教えにいらっしゃいました。そこで開催された講師たちのコンサートに、ありがたいことに入れていただいて、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲を、アナ・チュマチェンコ先生が第1ヴァイオリンを弾く隣で、第2ヴァイオリンを弾かせていただく機会に恵まれました。チェロはマルコ・ユロネン氏、ヴィオラはマーク・ゴトーニ先生、ピアノはマーク・ゴトーニ先生の父でもある巨匠のラルフ・ゴトーニ氏で、彼とアナ先生は昔からよく演奏活動をしており親しい関係のようでした。一流の音楽家たちとの共演は本当に夢のような時間で、一生忘れられない体験となりました。アナ先生の音楽はとてつもなくスケールが大きく、先生の体を柱にして天から音楽が降りてきているようでした。聴いていた知り合いによると、それに触発されて私の音も普段と違うように響いていたそうです。その次の日からはアナ先生のレッスンを受け、そこでも多くを学びました。印象に残っている言葉は「弓は私たちの言葉。それで話すこと!」「体は自分が思っている以上に賢い」「まずは極端にやること」などです。アナ・チュマチェンコ先生は前々から私が最も尊敬しているヴァイオリニストの一人で、中学生のころに日本でシューマンのヴァイオリン協奏曲の公演を聴きに行ったのを覚えています。そこで彼女の音楽のダイナミックさ、音楽的言語の明瞭さ、それを実現する技術の柔軟さに感銘を受けました。その彼女から直接指導を受け、室内楽を共演することができたのは、人生の中でも記念すべき出来事でした。

アナ・チュマチェンコ先生(左)、マーク・ゴトーニ先生(右)フィンランド・サヴォンリンナの室内楽コンサートの楽屋にて、
アナ・チュマチェンコ先生(左)、マーク・ゴトーニ先生(右)と

サヴォンリンナの美しい夕暮れサヴォンリンナの美しい夕暮れ

今後の目標

一番近い目標は、今年10月半ばに開催されるパガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで最高の演奏をすることです。今日も練習漬けの1日が終わり、今これを夜中に書いているところです。パガニーニの曲は技術的にハードな上、私は手がとても小さいので負荷が大きいです。それだけ手を痛める危険性もあるということを考慮して、手のケアを怠らないようにしています。また、ヴァイオリンを弾く練習ばかりではなく楽譜を読んで研究したり、頭の中で音を鳴らしたり、声で歌ってみたりしてバリエーション豊かな練習を心がけています。できる限りの良い準備をして、最後は覚悟を決めてステージでエネルギーを爆発させたいと思っています。

イタリア・ジェノヴァパガニーニ国際ヴァイオリンコンクールの予選で訪れたイタリア・ジェノヴァ、10月の本選もここで行われる

猫と一緒に折り紙エリザベート王妃国際音楽コンクールを受けた際のホームステイ先で、猫と一緒に折り紙

将来的に、何を軸にしていくか私はまだ完全には決めていません。ソロも好きだし、オーケストラにも興味があるし、教えることも大好きです。この秋から始まる生活は、その方向を決めていく大きな手がかりになると感じています。ソロとして国際コンクールへの挑戦、アシスタントとして教える立場、オーケストラでコンサートマスターを務める経験、その全てが私が今求めているもので、そこから多くを学べると確信しています。自分が何に一番向いているのかがわかってくると思うし、どの道に進むとしても全ての経験が総合的な音楽力として生かされると思います。今は与えてもらった環境や機会を最大限に活かして学び、いろいろなことに挑戦して、自分がどこまでできるのか試したいと思います。私の理想とする音楽家像は「自己顕示欲によるショーではなく、自分を媒体として作曲家の残した美しい音楽が、在るように在れるように」ということです。静かに祈るような、純粋な美しさを持った音楽ができる人間でありたいです。

古澤 香理(KAORI FURUSAWA)さん プロフィール

  • マレーシア、クアラルンプール生まれ
  • 4歳よりヴァイオリンを始め、幼少期を中国、マレーシアおよび日本で過ごす
  • 2017年 桐朋女子高等学校音楽科(共学)を卒業後18歳で単身渡独
    ベルリン芸術大学にてマーク・ゴトーニ氏に師事し、在学中全ての実技試験を満点で卒業
  • 2019年 第7回仙台国際音楽コンクールにて聴衆賞受賞
  • 2021年 ドイツ・クロンベルクアカデミー夏季マスタークラスにて2年ごとに優れた才能に与えられるアナ・チュマチェンコ賞を受賞、在ドイツ日本国大使館などでリサイタルを開催
  • 2022年より、ベルリン・ハンスアイスラー音楽大学に在学し、ビョル・カン・エンダース氏に師事している
  • 2023年 イザイ国際音楽コンクール第2位
  • 2023年から25年までベルリン・ドイツ交響楽団(DSO)のアカデミーに在籍
  • 2025年ドイツ・ムジークレーベン財団主催 第32回ドイツ楽器基金コンクールの受賞者として、
    エンリコ・ロッカ(1847~1915イタリア)の1900年頃製作の楽器を使用
  • これまでにヴァイオリンを北山みどり、方蕾(Fang Lei)、猪本桃子、竹花英里子、和波孝禧の各氏に、バロック・ヴァイオリンを戸田薫、寺神戸亮の各氏に、室内楽を土屋美寧子、磯村和英、山崎伸子、ヴィネタ・サレイカ=フォルクナー、アンテア・クレストン、エッカート・ルンゲの各氏に師事