続くプログラムは、四大バイオリン協奏曲のひとつであり、ロシア最大の巨匠、P.I.チャイコフスキーが残した唯一のバイオリン協奏曲『バイオリン協奏曲二長調Op.35』。チャイコフスキーがこの曲の初演をロシアの第一人者L.アウアーに依頼した際、「演奏不能」の理由で拒否されている。それほどまでにバイオリンの技巧的な見せ場が多い作品だが、徳永が縦横に繰り広げるソロは圧巻だ。
一方、渡辺が奏でるオーケストラサウンドは、豊かな音の厚みと、絢爛なバイオリンを支える繊細かつ力強い音色で、ひとりの人間が弾いているとは信じがたいほど。渡辺の確かな音楽性や表現力、さらにアレンジャーとしての実力をたっぷりと感じさせてくれた。
終始吸いこまれるような演奏は、躍動的で熱狂的な展開を見せた後、たたみこむようにして終結。「すごい!」と思わず叫ぶ声がどこからか聴こえてきたが、聴衆の気持ちはみな同じだったに違いない。
アンコールは、J.マスネの『タイスの瞑想曲』。渡辺の伴奏に乗せて徳永が奏でる甘美なメロディーが、聴衆を心酔させる。さらに、興奮冷めやらぬ雰囲気のなか、2度目のアンコールに応えてF.クライスラーの『中国の太鼓』が披露された。打って変わって軽快で技巧的な演奏に、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「この共演はエレクトーンという楽器の将来にもつながると思う」と語っていた渡辺。渡辺睦樹というアーティストはもちろん、エレクトーンの魅力と尽きせぬ可能性を感じさせる、貴重なコンサートとなった。
文:福田素子
写真:Ayumi Kakamu
●バイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35 第1楽章より・第2楽章より・第3楽章より(P.I.チャイコフスキー)
●バイオリン協奏曲集「四季」Op.8 春 第1楽章(A.ヴィヴァルディ)