ヤマハ音楽支援制度は、優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待される若手音楽家への支援として「音楽奨学支援」(13歳以上~25歳以下)を実施しています。
今回は2019年度の支援対象者で、現在、東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻1年に在学中の島多璃音さんにお話を伺いました。
プロフィール:島多 璃音(シマタ リイト)
1998年デュッセルドルフ市(ドイツ)生まれ、兵庫県宝塚市にて育つ
4歳よりヤマハ音楽教室に入会、ジュニア専門コース研究クラス修了
2011年、2015年ヤマハヤングピアニストコンサートFINAL推薦演奏会に出演
2017年 第18回ショパン国際ピアノコンクールin ASIAアジア大会高校生部門 金賞およびソリスト賞
2017年 第21回浜松国際ピアノアカデミーコンクール 第6位
2017年 第41回ピティナピアノコンペティションG級 銅賞
2017年 第71回全日本学生音楽コンクールピアノ部門高校の部全国大会 第1位および兵庫県・ゆずりは賞受賞
2019年 第3回ベートーヴェン国際ピアノコンクールアジア 第1位
2019年 第5回いしかわ国際ピアノコンクール一般部門 奨励賞
2019年 第5回下田国際音楽コンクールプロフェッショナル部門 第1位
2019年 第4回スペイン音楽国際コンクール 最優秀賞(第1位)、特別賞受賞
伴奏の分野でも活躍し、第15回関西トロンボーン協会コンクールヤングアーティスト部門優秀伴奏者賞を受賞(史上初)
コンクール受賞記念演奏会にて自作曲「序奏とソナタ」を初演、好評を博す
浜松国際ピアノアカデミー、京都フランス音楽アカデミー、ピアニストのためのアンサンブル講座を受講
これまでに、ピアノを福尾文子、池田寿美子、木村綾子、坂井千春、フィンガートレーニングを加藤真弓、作曲を長谷川京子の各氏に師事
兵庫県立西宮高等学校音楽科を経て、現在 東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻1年に在学中。大学では専攻の実技レッスンの他に基礎的な和声法や音楽史、語学でドイツ語、一般科目では社会における音楽・芸術の在り方を学んでいる。
音楽を始めたきっかけ
物心がついたときにはヤマハの音楽教室に通い、エレクトーンを弾いていました。両親に聞いたところ、父がヤマハに通わせようと提案したそうです。確かに息子に「りいと」(Lied、ドイツ語で歌)と命名するわけですから、音楽をやらせるのはもはや必然のことだったのでしょう。逃れられない運命…。
自己紹介すると「ご両親は音楽家ですか」とほぼ毎回聞かれるのですが、そんなことはなく、学生時代にコーラス部だったと聞いています。ただコーラス部に入っているだけで「りいと」などという名前が出てくるはずがないので、詳しいことは聞いていませんが、かなり真剣に学んでいたことは想像に難くありません。
印象に残った経験、先生、レッスン
小、中学生の時はレッスンのときによく泣かされていました。当時(特に小学生の頃)、バスケットボール、野球、体操、作曲、そして国体選手やオリンピック選手を育成するために設立された「ひょうごジュニアスポーツアカデミー」に通い、多いときには週6日習い事がある日々でした。毎日ピアノの練習はしていましたが、なかなか練習時間を多く確保できず、先生いわく「レッスン中に良くなって、次のレッスンでまた元に戻っていた」のは、そのような背景があったからかもしれません。
「ピアノよりも走るのが好き!」とコンクールの審査員の先生に宣言し、先生に黙って陸上部に入りピアノは二の次三の次だった私が、中学1年の秋、県立西宮高校の音楽科の説明会に行き、ここに入りたいと思ってピアノの先生に電話しました。話した内容はよく覚えていませんが、優柔不断な私が初めて自分の未来を決めた瞬間だったと思います。
ただ、そのときに行きたいと思った理由が「体育大会が楽しそう」「球技大会やマラソン大会もある!」と、音楽科の生徒らしからぬ理由だったのは今だから話せることです。高校に入ってもリレーで1位を取ったり、50m走は県内でも強豪であった陸上部を抑え、校内1位だったり…今考えても何を目指していたのか、自分でもよくわかりません(笑)
影響を受けた音楽家、好きな音楽
私はクラシック音楽を軸とした生活を送ってきませんでした。逆にこれまで私の生活を彩ってきた音楽はポピュラー音楽でした。
小学生時代はAKB48の全盛期、クラスのお楽しみ会では、チャラいサングラスをかけ、合いの手を披露していました。
中学生時代はラジオにハマり、テスト期間中に勉強をするときのお供になりました。またその頃は「ゲスの極み乙女。」と「KANA-BOON」をはじめとするバンドの戦国時代で、ラジオから流れるアップテンポのドラムが効いた楽曲に心を踊らせる日々でした。初めて自分の意志でバンドのアルバムCDを買いました。
そして、ジャズの独特の和音にも興味を持ち始め、ヤマハのJOC(ジュニアオリジナルコンサート)のモチーフ即興ではジャズのリズムや和音を使った即興を披露しました。
高校生時代は米津玄師が世間に知られるようになった時期で、私もラジオ経由で少し前から知っていました。日本のポピュラー音楽界であのような複雑な伴奏を用いながら人々に届く歌詞を歌い上げるシンガーソングライターは聞いたことがなく、初めて聴いたときに衝撃を受けたことを今でも覚えています。
そして私の特に好きな音楽は映画音楽やアニメ、ドラマのBGMです。ハリー・ポッターやレッドクリフ、スター・ウォーズなどのテーマ音楽はその作品の特徴をはっきりと描き出し、エヴァンゲリオンやナルトのBGM(特に戦闘シーン)は臨場感とスリルを増幅させる重要なピースとなっています。そのような、身近なところに隠れて力を発揮している音楽を見つけるのが最近のマイブームです。
今後どんな音楽をしていきたいか
先の話につながるのですが、もしハリー・ポッターのテーマ曲が交響曲の第一楽章だったなら…或いはレッドクリフのテーマ曲がスケルツォの楽章として生まれていたなら…クラシック音楽は現在のような世間と乖離した存在ではなかったかもしれないと考えています。実際、ラフマニノフのピアノ協奏曲がハリウッドの映画音楽として認知された過去があるように、クラシック音楽とポピュラー音楽の違いは、あってないようなものなのかもしれません。そう考えると、今のクラシック音楽の作曲家は、ポピュラー音楽とクラシック音楽を結びつける、橋渡しをするような作品を全く作ってきていないのではないかと気づきました。もちろん、現代の作曲技法を駆使した、無調で作曲家にしかわからない曲を作曲するのも、音楽の歴史の中では必要なものだということは重々承知しています。
しかし、人気のオペラのメロディを変奏曲のテーマとして用いたり、大衆の流行歌のメロディが教会で流れていたりした時代があったことを考えると、昔はポピュラー音楽とクラシック音楽の垣根が、今よりも高くなかったと考えるのが普通だと思います。
さて、現代においてクラシック音楽とはいったい何なのでしょうか。私は形骸化したそれをもう一度再定義し、クラシック音楽と一般社会がもっと相互に行き来できる社会を目指して、広くアンテナを張りながら、日本の文化の中心である、東京で学び続けていきたいと思っています。
「月刊ピアノ」2020年2月号の「響け★卵たちの毎日」で、大学生活が紹介されました。
演奏会の予定
2020年1月26日(日) 第4回ピティナ甲子園支部 入賞者記念コンサート
場所:神戸芸術センター内 芸術劇場
開演:10時30分(演奏時間は未定)
入場料:無料(要整理券)
2020年2月9日(日) 第14期ピアニストのためのアンサンブル講座 終了記念コンサート
場所:静岡音楽館AOIホール
開演:15時(開場:14時30分)
入場料:一般1,000円 22歳以下無料