今春より、小学生を対象としたコースの教材が改訂されました。ヤマハ音楽教室の教材は、単なるお手本ではありません。そこには子どもたちに楽しく音楽を学んでもらうため、試行錯誤を繰り返してきた60年間のノウハウが詰まっています。そんな教材の特長や制作方針などについて、ヤマハ音楽振興会 教育指導本部・前田正志に、話を聞きました。後編となる今回は、教材制作時のこだわりや子どもたちに伝えたいことについてのインタビューを中心にご紹介します。
バリエーション豊富な音源で、子どもたちの幅を広げる
―― 前回「本物の音楽を使用している」というお話をうかがいましたが、そのほかにどのような特長がありますか?
今レッスンしている楽器はピアノやエレクトーンなどが多いかもしれませんが、必ずしも子どもたちが将来、その楽器の演奏家にならなくても良いと考えています。もしかしたら、ピアノからクラリネットに転向する子どももいるかもしれません。その可能性は広げておきたいのです。ピアノをやっている子どもにオーケストラの音源を聴かせることで、ピアノ演奏に良い影響があるかもしれませんし、別の楽器に興味を持ってくれるかもしれません。そういう可能性をヤマハではたくさん用意しておくことが大事だと考えています。ですので、教材には音源の高い品質に加えて、幅広いバリエーションを持たせています。
教材で使用している音源はクラシックだけではありません。ポピュラー音楽も民族音楽に近いものもあります。限定せず、なるべく幅を広げてあげたいというコンセプトです。明るい音楽、シリアスな音楽、いろいろな子どもたちがいますから、そこは決めてかからず。シリアスな曲が好きだとしても、それは子どもの個性として尊重すべきだと思います。ヤマハ音楽教室のOBの方は、正統派の演奏家やミュージシャンもたくさんいますが、お笑い芸人の方やお医者様などもいます。それぞれの分野で独自の才能を開花されている方が多いです。可能性の幅を広げて、出てきた可能性を否定しないという、教育理念につながる結果だと思います。
子どもが自分から取り組むようになる仕掛けを盛り込む
―― 今回、前田さんが教材制作でこだわられたのは、どのような部分ですか?
音源に高い品質を求めること、幅広い音源を教材にしてさまざまな音に触れる機会を用意すること。この2点は重要ですが、それだけではダメです。多少の遊びの要素を追加するなど、子どもの興味を引くような仕掛けがあって、はじめて子どもは自分から取り組むようになると思います。単純にお手本としての教材ではなく、教材の曲を基に、新たな発想で既製の曲を変えたり、新しい曲を作ったりという創作意欲を刺激したい。その点にも、ヤマハ音楽教室の教材は力を入れているのです。
また、音楽教室の講師の皆さんにご協力をいただいて、「この音源をこの展開で聴いてもらったとき、子どもたちに振り向いてもらえるか?」など、制作中の教材を試していただきました。そして「このイントロだと子どもたちの反応が悪かったから、もう少し派手にした方が良い」、「アレンジのテンポが速過ぎるから、もう少し落ち着いた方が良い」など、実際の子どもたちの反応を見てフィードバックをいただきました。おかげで、非常に良い教材ができたと感じています。