研究活動支援対象者の活動レポート

バイオリン演奏中の左手指の力発揮とその音操作への関与について大阪大学大学院医学系研究科 木下博 教授 インタビュー2009年11月27日 取材

単音やビブラートの演奏時に、どのような力が加えられているかを実証

今回の研究では、バイオリンの弦を張っている部分にある指板をはがして、力量を測るセンサーを埋め込み、通常のバイオリンと変わらないようにセッティングした、実験用バイオリンを用意。残念ながら、ほかの音と緩衝してしまうため、センサーはファーストポジションの「レ」の1音だけに絞ることにしました。あご当てにもセンサーを取り付けました。

小幡: まずはいくつかのテンポで、「ラ」と「レ」の音を交互に演奏してもらい、基本的な弦を指で押さえる運動において発揮されている力量を計測しました。遅いテンポのときは、音と音を切り替えるときにノイズが入らないように左手で弦を押さえる運動を素早く連続して行ないますが、この切り替えの瞬間に強く力を入れています。そして、音が切り替わった後は、力を抜いて同じ音をキープするのですが、そのことが波形からも読み取れます(下図1参照)。逆にテンポが速くなると、キープする時間が短くなるため、ただ左手の指で弦を叩いているだけという間隔の短い波形が表れました。

木下: 音の大きさも力量に関係していて、右手の力が強くなると左手にも力が入ります。また、遅いテンポだと力を入れるのが容易で、速いテンポだと力を入れにくいことも分かりました。こうした行為は意識せず行なわれており、音楽家は無意識のうちにいい音を全身で作り上げようとしているのです。さらに、バイオリン経験が浅い演奏者ほど波形にバラつきが見られ、経験豊かな演奏者ほど音を均等に出したり、力を自在に操って感情の赴くままに音を出したりできることも実証できました。

今回の研究では、弦を押さえている指を揺らすことで音を振るわせるビブラートという技法についても、併せて力量の計測を行ないました。

小幡: ビブラートは指で弦を押さえつけているように見えますが、計測したデータを見ると押しては抜き、押しては抜きという作業を交互で行なっていることが分かります。ビブラートにはいくつか種類がありますが、速さ、音量、ピッチの幅によって力の入れ方が変化することが分かりました。こうしたデータに基づき、同じ力の入れ方をすれば、同じ音色のビブラートができるのではと推測しています。

また、被験者の方々は同じように演奏しているつもりなのですが、今回の計測で、演奏時の運動で発揮される力量には個人差もあることも分かりました。左手で弦を押さえる力は平均して600~700gでしたが、同じ音量、同じテンポであっても、その差は3~4倍もの開きがありました。あご当てにかかる力も同様です。

強く弦を押さえている人は指の負担も当然大きくなってきますし、何年も積み重ねていくことで指が動かなくなり、現役でいられる期間が短くなってしまう恐れがあります。弱い力でも同じ音質の音を出すことができ、効率良く演奏できるデータが提供できれば、音楽家のケガの予防につなげることができると考えています。

(図1)単音演奏時の力量計測データ

(図2)ビブラート演奏時の力量計測データ

今回の計測で実際に演奏した音データ

下記リンクよりテスト音源をお聞きいただけます。

  • 単音データ(1Hz)

  • 単音データ(16Hz)

  • ビブラート