研究活動支援対象者の活動レポート

音楽認知に内在する身体・運動性に関する研究 -乳幼児の音知覚の発達を中心にして-国立情報学研究所情報社会相関研究系 丸山慎 特任研究員 インタビュー2010年02月24日 取材

身体的な運動によって経験される空間感覚は、音高の知覚に影響を与えているのかと

第1段階の実験では、8カ月~15カ月の乳幼児が7名集められました。お子さんたちには、最初に約60cmの乳幼児用すべり台でお母さんと一緒に昇降のいずれかの運動のみを3~4回繰り返すというトレーニングをしてもらいました。つまりすべり台の斜面をひたすら昇るだけの経験をしたお子さん、あるいは逆に下るだけの経験をしたお子さんというように遊びを通してグループ化したわけです。次にテスト・セッションとして、イスに着座したお子さんの頭部に小型CCDカメラを装着し、その状態で左右のスピーカーから順にハ長調の上昇(ドレミファソラシド)および下降(ドシラソファミレド)の音階を再生してお子さんに聴かせました。そして左右どちらの音階のパターンにより多くの注意を向けていたのかということを、選考振り向き法を用いて測定しました。

「この実験は、私たちの空間的な上下感覚と音の高さの知覚との間にメタファー以上の対応関係が存在するのかどうかということを実験的に検証することを問題としていました。そこで非常に大胆な仮説ではありますが、実際の運動を通して経験した空間感覚と音高の知覚とが対応しているとすれば、トレーニングで経験した運動の方向、つまり斜面を上昇したのか、あるいは下降したのかということは、音階に対するお子さまの注意の向け方に影響を及ぼすのではないかと考えたわけです。例えば「すべり台の斜面をひたすら昇る経験をしたお子さんは、上行する音階の方により注意を向けるようになるかもしれない」というわけです。残念ながら課題そのものを十分に完了したケースが予想よりも少なかったため、結論を導くには至りませんでしたが、私たちの仮説に沿うような傾向をはっきりと示すお子さまもいました。もしかしたらすべり台をスムーズに上下移動することができる身体的な運動能力が発達することによって、音高への感受性が高まることいったような関係があるのかもしれない、そんな展開が期待できるケースもあったわけです。

ただ今回の実験結果を通じて、当初の仮説を支持するような傾向を見せる子どもも確かに観察された一方、それ以外のケースも散見されたといいます。

この複雑さは、斜面を移動する際に子どもたちが経験することが、単に空間的な上下の感覚というだけではなく、斜面を登る際に生じるあらゆる身体感覚や知覚情報が複雑に絡まりあったためであるということを示しているのではないかと考えています。このような考察をさらに強固なものにするためには、さらに分析を進めつつ、データ量を増やしていくような努力を続ける必要があると思います。

実験概要図

実験風景