研究活動支援対象者の活動レポート

音楽演奏中の視線行動に関する研究大阪大学大学院人間科学研究科 河瀬諭 研究員 インタビュー2010年12月13日 取材

タイミングを合わせる瞬間ではなく、直前に目で相手を確認する

今回の支援を受けて河瀬研究員が行なった実験は、2人のピアニストに、テンポ変化などタイミングを合わせる個所が9カ所もあるような曲をアンサンブルで演奏してもらい、お互いがタイミングを合わせるときの視線行動について測定するというものでした。2人のピアニストは、ガラスで隔てた2つの防音室に分かれ、さまざまな環境下で演奏を行ないました。

河瀬: 演奏環境は、(1)首から下の身体だけが見えている環境、(2)首から上の頭(顔)だけ見えている環境、(3)お互いの動きがすべて見える環境、(4)相手がまったく見えない環境と4つの環境を設定しました。また、楽譜は実験当日に渡し、実験前に十分な練習時間も設けました。各条件で3回ずつ計測を行ないました。

かねてから、タイミングを合わせるためにはアイコンタクトが必要だ、ということがよくいわれてきましたが、今回の実験で、実際にタイミングを合わせる瞬間に相手を見ているかというとそれ程は見ていないということが分かりました。どうやらタイミングを合わせて弾く瞬間ではなく、むしろ直前の0.5秒~1秒前に相手を非常によく見ていることが分かったのです。

また、どのタイミングで相手を見るとタイミングが合わせやすくなるのか、相関関係についても一定のデータを得ることができました。

河瀬: (図2)で示したグラフで、ピアニストがある瞬間にお互いを見たことと、そのあとにタイミングが合うことの相関関係を見ていただくと、音の出だしの1秒前あたりで相手を見ているとズレが少なく、タイミングを合わせる瞬間に相手を見ているとズレが大きくなってしまうことが分かります。これは、演奏をするピアニストの組み合わせが変わってもほぼ同じ結果が得られました。

この結果から、視線行動とタイミング調整にはやはり何らかの関係があることが分かりました。それは相手が音を出す瞬間ではなく、直前の何かを見ているということも判明しました。そこにはおそらく、「もうすぐ重要な演奏パートですが、分かっていますか?」という“合図”の意味と、“事前の動作をキャッチする”という意味が含まれているのではないかと考えられます。この部分は今後も検討していく必要があると考えています。

(図1)実験状況

(図2)実験結果

(図3)相関図