研究活動支援対象者の活動レポート

音楽が身体表現の動作特性に与える教育・芸術学的意義お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科 水村真由美 准教授 インタビュー2011年06月28日 取材

ダンス経験が豊富だと、手足よりも体幹の方が動作が大きくなる

今回の実験は、音楽とともに一定のリズムに合わせて単純な動作を行なってもらい、手足と身体の中心の動的特性を調査することで、音楽が及ぼす動作への影響を検討する、という形で進められました。また、実験結果を教育の現場で活かすことを想定していたため、発育・発達という観点でも検討できるように、子どもと大学生という年代が異なる被験者を比較しました。

水村: お遊戯などで子どもが音に合わせて動く場面を想定して、幼稚園の年長組に通う女児15名と当大学の女子学生8名に、「その場で歩く動作」と「手足を同時に屈伸する動作」という2つの簡単な動作をしてもらいました。また、幼児は、音楽やダンスに関連する習い事をしていないこと、逆に、大学生は、ダンスの訓練を4年以上継続していることを条件としました。

使用した音楽は、(1)比較的ゆっくりなテンポ(56bpm)のメトロノーム音、(2)速いテンポ(112bpm)のメトロノーム音、(3)1と同じテンポのピアノ曲、(4)2と同じテンポのピアノ曲の4つです。そして、手足と腰に加速度計を装着してもらい、動作の力性について、加速度を測定することで比較しました。

自分の経験上、ダンス表現は、手や足だけではなく、からだ全体でリズムを取ることなどが重要になります。そのため、ダンスの経験が長い大学生の方が、体幹に近い部分の加速度が大きくなるだろうという仮説を立てていました。実際の実験でも、幼児は手足の加速度が大きくなり、大学生は腰の加速度が大きくなるという、仮説通りの結果が得られました。長い間ダンスを音楽に合わせて動いたり表現したりしている大学生の方が、全身でリズムを動きに変えているのではないか、と考えられます。

一方、音楽と動作の関係性については、実験前に立てていた仮説とは若干異なる結果が得られたと水村准教授は話します。

水村: テンポが速い方、メロディがある方がより加速度は大きくなるという仮説を立てていたのですが、大学生からは、テンポやメロディによる最大加速度への影響はあまり見られませんでした。また、子どもたちは、テンポが速くなると手足の動きも速くなるという点は仮説の通りでしたが、メロディがある曲よりもメトロノーム音を聞いていた方が、加速度が大きくなりました。これは予想に反した結果でした。

この結果については、今回特にイメージを想起しにくいメロディのピアノ曲を実験用に使用したことと、メトロノーム音の単調なリズムの方が、子どもたちの音のイメージに合っていたということが原因ではないかと考えています。裏を返せば、動きの質に合わせて音楽を変えていき、その2つがマッチすれば動きは大きくなるのではないか、ということが考察できます。

実際の実験風景

身体の動きの計測に使用した加速度計

その場で歩行中の各部の最大加速度

手足の屈伸中の各部の最大加速度